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田代まさしに薬物を売った元売人が語る「週末シャブ中」の実態

刑務所は犯罪者たちのハローワーク

 そして、覚せい剤の恐ろしさは社会復帰の難しさにもあるといいます。  倉垣さんは刑務所内で「また会えたらお仕事しましょう」と注射器の売人にスカウトされたり、出所してからの犯罪行為のためのコネクションを作る人たちを目撃しました。  実際に刑務所の中で知り合った人たちと出所後取引をする薬物犯罪者は多く、倉垣さんによれば「刑務所は犯罪者たちのハローワーク」とのこと。出所後の再犯率が50%を超えていることからすると、その表現は大げさなものとは言えません。  そんな倉垣さんは刑務所の中で大金を稼げる犯罪の誘いを受けながらも「派手に金を稼いで見栄を張って生きて行きたいか? またここに戻って来るのか?」という自問自答を繰り返します。そして、「生きて行けるだけの金があればそれでいい。もうこんな場所には二度と来たくない」とシンプルな答えに辿り着きました。  真面目に真っ当に生きたいと願う強い思いが、倉垣さんに再犯の誘惑を断ち切らせたのです。

受け入れてくれた和尚と両親

 私にとって『薬物売人』で印象的だったのは、逮捕前から倉垣さんに寄り添う福岡の小倉にある寺の住職「和尚」の存在です。  和尚は逮捕当時、すでに20年来の友人でしたが、全てを知った上で説教をすることもなく、京都から来た倉垣さんを受け入れました。  逮捕前に9日間、和尚の家に滞在して語り合い、ひとりで読書をするうちに倉垣さんは「堂々と逮捕される」決意をします。 「和尚は何も言わず、僕が答えを出すのを待ってくれていました。そして、逮捕されることについては自分で導き決心しました」(倉垣さん)  倉垣さんは刑務所の中にいる間も和尚と手紙のやり取りを続けました。  また、仮釈放の際に身元引受人になったご両親も倉垣さんの社会復帰をする上で大きい存在でした。仮釈放後に実家に戻った倉垣さんは「両親と一緒につつましい食事をとり、一人で時間を気にすることなく風呂に浸かり、ふわふわの綺麗な布団でぐっすりと眠る」時間を貴重で贅沢で裕福に感じたといいます。そして、善悪や後先を考えずに行動した倉垣さんを最終的には許し、受け入れてくれたご両親。 「薬物依存の歯止めになった両親がいなければ確実に、もっとひどいことになっていたと思います」(倉垣さん)
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再び薬物に手を出す
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薬物売人

田代まさし氏への覚醒剤譲渡で二〇一〇年に逮捕され、懲役三年の実刑判決を受けた著者。自らも依存症だった元売人が明かす、取引が始まるきっかけ、受け渡し法、人間の壊れ方――。逮捕から更生までを赤裸々に描く。
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