お金

EV一辺倒のクルマ業界でトヨタが「それでも首位を取る」意外な理由

よぎる懸念、過去の「ジャパン・バッシング」

 しかし、喜んでばかりもいられない。トヨタが米国販売台数首位となった報道で1981年の自主規制を思い出す人が多いです。  歴史を振り返れば、1973年の第2次オイルショックにより原油の値段が高騰したことで、燃費が悪い米国車から、小型で廉価・燃費の良い日本車へとアメリカの国内の需要が移っていきました。  日本から米国への自動車輸出が急増したことで、日本車にシェアを奪われたGMなど自動車大手の業績が悪化し、リストラに追い込まれました。  自動車産業の集積地では、憤った失業者たちが日本車をハンマーで叩き潰す行為を起こし、その光景は全世界のテレビで放送されました。「ジャパン・バッシング」として教科書等でもよく紹介されているものです。  その後、1981年にロナルド・レーガン政権が発足し日本政府に自主規制を求め、3年間にわたり日本車の輸入を年間160万台に制限に合意した過去があります。  シェアを獲得することで、苦い思い出があるトヨタでは、米国の現地ではナンバーワンをあえて刻印しない雰囲気だと報道されています。  しかし、当時とは状況が異なります。  トヨタはトランプ政権の時代に、トランプの意向に沿うカタチで米国内に工場を建設することで雇用を守ることに寄与しています。  例えば、米アラバマ州に23億1100万ドル(約2500億円)をマツダと共同で投資し、4000人を雇用する工場を新設しています。  その他、ケンタッキー州の工場に4億6100万ドル(約520億円)を追加投資し、派遣会社を通じて雇用している従業員1400人を直接雇用に切り替えるなど、米国への配慮を行っています。歴史から学び、米国でもうまく立ち回りながらトヨタは力強く成長しています。

EVも全て“本気”のトヨタ、BEV戦略

 トヨタの意思の強さ。いや、自動車業界550万人の雇用を守る意地を感じるメッセージが昨年末に発表された「バッテリーEV(BEV)戦略」です。  2021年12月にトヨタ自動車は、30年に電気自動車(EV)のグローバル販売台数で年350万台を目指すとするBEV戦略を発表しました。  欧州や中国が急速なEV化を進める中で、トヨタはEVに消極的なのか?とトヨタへの見解は様々な意見が分かれていました。しかし、今回の発表でトヨタはEVへ積極的であることを市場にハッキリと示したことになります。  トヨタはカーボンニュートラルの“多様な選択肢”を市場とお客さまに提供したい。水素もやるし、ハイブリッドもやるし、BEVもやる。全ての選択肢に対して懸命にやる。  これがトヨタが考える全方位、“フルラインアップ”の考え方なのです。  今回のBEV拡大戦略は、トヨタのブランディング戦略でもあります。「世界のトヨタ」が電気自動車の業界をどう牽引し、革新をどう進めていくか、アクセス全開のトヨタのこれからの加速が期待されます。

馬渕麿理子

<文/馬渕磨理子>
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ