更新日:2024年02月01日 15:37
仕事

「仕事のことを考えると脳がフリーズする」取引先に“ダメ出し”され続けてメンタル崩壊

 仕事量の増加、人間関係の軋轢、業務内容への不安ーー一口に職場のメンタル不調といってもそのケースはさまざまだ。実際にメンタル不調で休職した個々のケースを掘り下げ、当人、もしくは会社側の対応の是非や、善後策について、医師の見解をもとに振り返ってみたい。

「ソリの合わない人と仕事をするとメンタルをブチ壊す」 タカシさん(仮名・42歳)

メンタル不調

取材に応じてくれたタカシさん

 スマホゲーム制作会社でプランナーとして働くタカシさん(仮名・42歳)。キャラクターの名前や能力、強さを設定し、セリフなども考え、ゲームの世界観をサポートするというクリエイティブな仕事を担当している。会社は大手玩具会社の下請けという立場だが、残業はなく基本週休2日。年収は500万円と決して悪い環境ではない。  しかし、今夏にうつ病と診断され休職。メンタルを病んだ原因は明らかで、1年半前に取引先の玩具会社の担当者が変わり、その理不尽な言動がタカシさんを追い詰めたのだ。 「発注を受けて作るものですから、売上やトレンドによって方針が変わるというのであれば、それに従います。でも、その担当者は、時々で言ったことを覆すんです」  例えば、いまは男性ユーザーが多いため、かわいい女の子のイラストの需要が高い。しかし、ゲーム性を考えたら、ある程度、グロいモンスターも世界観には必要だ。  そのバランスについて打ち合わせをし、「女の子7、それ以外3」と決まったとしても、担当者は「いや、8:2ですよ」「そもそも、グロいキャラは、いらないんですよ」とその場の思いつきで方針を変えるのだそう。 「『一緒によくしていきましょう』といった態度であればまだいいのですが、常に“べき論”なんです。『こうすべきじゃないですか』『そんな当たり前でしょ』って、頭ごなしに否定をしてくるのがキツくて」

上司に対して訴えるも「代わりの人材がいない」

 クリエイティブの世界だから、唯一の正解はない。また、個々人の好みも当然ある。しかし、そこはゲームとして「より面白く」、商品として「より売れる」ものを互いに探っていくものだと思うのだが、件の担当者にはそれが一切なかった。  タカシさんの提案はいつも、「そんなのありえませんよ」と断定的に否定され、何度もやり直し。建設的な会話ができないため、相手の求める正解がわからず、どうしたらいいのかもわからなくなってしまったという。それはまるで、「賽の河原(さいのかわら)で石積みをしている感じ」だったとか。  タカシさんも、「資料を読みもしないでダメ出ししているような人と仕事はできない」と上司に訴えていた。が、結局、社内にタカシさんの仕事の代わりができる人はいなかった。会社として問題があると認識しつつも、具体的な改善策をとることはなかった。 「コロナになり、テレワークで接する程度ならダメージも少ないだろうっていうのが上司の判断でした。僕は争うのが嫌いで、基本的に相手の言い分を受け入れるタイプなので、まあ、なんとか続けてみます、ということになったんです」

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通勤電車の中で動悸が激しくなって……

通勤電車

写真はイメージです

 しかし、心は正直だった。昨年9月、タカシさんの中で「アラート」が出たのだ。 「じつは十何年前、前職のときにも休職をしたことがあり、その経験から『このままだとヤバイ』というのがわかるんです。動悸と不眠がそのアラート。去年の秋頃から、仕事の段取りを考えるときや、通勤電車の中で動悸が激しくなる感じがあって。会社に行きたくないって感情に支配されていきました」  幸い当時はテレワークだったため、出社する必要がなく、自宅で体を休ませながら、仕事を続けていたという。しかし、それも根本的な解決にならず、今年7月、ついに限界がきたのだ。 「無理をしてでもちゃんと完成させようって頑張って、なんとかすべて納品したんです。が、その担当者からすぐに、『ダメです』って返事がきて。明らかに僕が出したものを見てもいない。もう好きにすればいい!と思って、会社に『つきあいきれないので、クリニックに行きます』と伝えたんです」  医師から正式な診断書が出るまでの1週間は、引き継ぎのための仕事を続けたが、食欲はなく1日1食、ゼリーか栄養ドリンクを口にする程度。その期間の記憶はないという。 「休職して2週間たち、1日3食食べること、散歩に出れる程度にまでにはなりました。でも、仕事のことを考えると、脳がフリーズするんです。大好きだった特撮やアニメも見れなくなりました、見てるとどうしても、『どうやって売ろうとしているのか』とか分析をしてしまい、気持ちが悪くなるんです」  さぞかし、ご自身をそこまで追い詰めた取引先担当者に対する恨みは大きいだろうと思いきや、意外な答えが帰ってきた。 「クリエイティブな仕事なので、自分が作ったものが評価されないというのはキツいですよね。でも、相手への憤りはなくて、むしろ、『相手の意図を僕がちゃんと酌み取れていれば』『何か事情があったのかも』って、考えてしまうん。自責の念が強すぎるのかもしれません。じつは前職で休職をしたときも、上司とソリが合わなくて。ソリの合わない人と仕事をしていると、メンタルをぶち壊すタイプなんでしょうね」

医師見解「裁量権とうつになりやすさは反比例する」

朝田隆

メモリークリニックお茶の水・朝田隆院長

 メモリークリニックお茶の水の理事長で医学博士の朝田隆先生はタカシさんのケースについてこうコメントする。 「タカシさんの場合、裁量権が与えられず、クリエイターとしての自尊心を傷つけられたことが、大きなストレス因になったと考えられます。 『仕事の裁量権とうつになりやすさは反比例する』というのは、産業医学会でも明らかになっていることで、決して、珍しくない事例だと言えるでしょう。  また、タカシさんは、真面目で一生懸命、責任感が強く、周囲を気遣い円滑な人間関係を重視する方のようです。こうした性格は、『メランコリー親和型』と呼ばれるうつ病になりやすい性格傾向と合致します。メランコリー親和型の人はギリギリまで我慢しがちですが、一般的に早い段階で治療をしたほうが、回復までの期間も早くなると言われています。  会社によっては、いきなり病院に行ったり、診断書を出したりすると、『無言の批判』と捉えるところもあります。まずは上司に相談し、産業医にかかり、紹介状なりをもらって医療機関を受診するといったステップを踏むと、社内の理解が得られ、穏便に治療へと入れるでしょう」 働くみなさんが本当に自分らしいコトや、幸せなトキに向けて、語り合う場のコミュニティサイトが立ち上がりました!是非、こちらから

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