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奨学金を借りた人々を取材して見えた「借りないとどうしようもなかった」人の多さ

メディアでは悪い面が取り沙汰されがちだが…

奨学金

『奨学金、借りたら人生こうなった』著者の千駄木雄大氏

千駄木:少し古いデータですが、JASSOによると2016年度の新たに破産した返還者の割合は返還者全体のうち0.05%程度。人数にして2009人なので多い気がしますが、母数は約410万人です。 ――“ブラック奨学金”として、制度のあり方を問題視するような報道が増えたのはいつ頃からでしょうか。 千駄木:学生の数も学費も増大するにしたがって生まれた、いろんな歪みを解消するために第二種が2003年にできたんですが、メディアで取り上げられるようになったのは2010年頃からですね。それまでJASSOが延滞者に毎月ハガキを出すだけでしたが、赤字が膨らんで。第二種は銀行の貸付の仕組みなので、消費者金融などと同じく業者による取り立ても厳しくなり、返済が滞ると信用情報に傷がつくようになったことなどが背景のようです。

「奨学金があったから今の自分がある」

――当事者の意識や状況も本当に様々だと思いますが、実際に取材した方々の傾向として感じていることはありますか。 千駄木:もともと人生ハードモードな方々を選んで取材しているのは当然あるんですが、貧困などで荒れている家庭などから抜け出すために、奨学金を借りて大学進学する人が多かったです。ずっと親からDVを受けていた方とか、宗教二世の方とか。子供が借りた奨学金を親が別の借金返済に充てるケースもあって。住宅ローンなど他の借金より奨学金のほうが金利安いため、「えらく安い金利で借金できた」ということで、毒親に苦労させられた人が1人や2人ではなく結構いました。 ――エピソードが強烈な人ばかりですが、奨学金600万円を借りた26歳の看護師の、「恋人に『早く返したほうがいいんじゃない?』と言われて腹が立った」という言葉も印象的でした。看護奨学金制度の話も出てきますね。 千駄木:看護奨学金制度は看護大学を卒業後、例えば付属の大学病院で2年間とか働くと全額免除されるという制度ですね。一方では実際に看護奨学金を借りて「職場環境が最悪だったけど、2年間の縛りのせいで辞められず地獄だった」という別の看護師もいて。どういう視座で個々の奨学金制度を評価するべきか、改めて難しさを感じた取材でした。 ――さまざまな事例を読むと、想像以上に奨学金が良くも悪くも枷になっていて、大学卒業の人生も方向づけていく様子も見て取れるような気がします。 千駄木:奨学金があるからツラい仕事も踏ん張って一人前になれたという人もいれば、結婚や住宅ローンをためらうという人もいて。ただ、当人たちからはわりと肯定的に「奨学金があったから今の自分がある」といった言葉を聞くことが多いです。「奨学金は自己投資」と考えた方が当人の気持ち的にもラクみたいですね。
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「奨学金を借りないとどうしようもなかった」と語る人の多さ
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1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii

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奨学金、借りたら人生こうなった

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