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“極端に低い”児童養護施設からの大学進学率「ガリ勉と馬鹿にされる空気が」当事者が感じた”見えない壁”

 児童養護施設などを出た、いわゆる社会的養護出身者と呼ばれる子どもたちの大学進学率は極端に低い。日本全国における大学進学率が約55%あるなかで、児童養護施設出身者では約18%に留まる【厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」(令和4年3月31日)】。  虐待家庭に生まれ、児童養護施設を経て東京外国語大学へ進学したフリークリエイター・あお氏(25歳、@voiceofao)は現在、貧困家庭の若者に携わっている。あわせて、社会的養護出身者の実情を伝えるYouTube番組の編集やナレーション、英語翻訳などのクリエイティブな活動をおこなう。そんな彼女が感じた、現代日本において学問を志すうえで存在するハードルとは何か。  ショートカットに眼鏡、その奥の突き刺すような瞳の色が印象的な女性だ。取材に際して「伝えたいこと」をメモしてきたという生真面目さにも思わず首肯した。
あお氏

あお氏

自ら警察に通報するも、隠蔽されてしまう

 あお氏が児童養護施設に入所したのは17歳のときだ。保護の理由は家族からの暴力だという。 「父、母、兄と暮らしていましたが、父から暴力を受けていました。暴言・暴力は殊にひどく、私がやることなすことに否定の言葉を向けてきます。たとえば、机に向かって勉強していると思った私が絵を描いていたとわかると、殴るのです。『ブス』『死ね』などの暴言は幼い頃からあって、学年が上がると『お前みたいに実力もなくてプライドだけ高い人間を雇う会社はない』と言われ続けて。母からは『産まなければ良かった』と言われたり、包丁を向けられたりはしました」  父親の暴力がエスカレートしたときには、あお氏自ら110番通報をおこなったこともある。だがことごとく家族によって隠蔽された。 「記憶している限りで5回ほど、警察を呼びました。当然警察官が駆けつけてくれるのですが、そのときにはもう私は押入れのなかに入れられていて、母親が応対してことを丸く収めていました。父は事業を営んでいて地元では名の知れた人でしたので、家族は『外部に知られてはいけない』という意識が強かったと思います」

児童養護施設への入所も“自力”だった

 ほかにも、あお氏は精神科を受診するなどの具体的な行動に出ているが、そのたびに家庭の闇は覆い隠されたという。 「父は私を『キチガイだ』と罵り、母親に命じて14歳の私を精神科に連れていきました。しかし受診した結果は『思春期にはよくあること』だとされ、睡眠薬を処方されて終わりでした」  周囲は頼れない。であれば児童養護施設につながったのも、まさに“自力”だ。 「17歳のときに登校するふりをしてそのまま児童相談所を訪れました。自分の身に起きている状況を述べると、保護の要否が検討され、一時保護が相当であると判断されました。その後、児童養護施設に入所することができました」
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入所者から「ガリ勉」と馬鹿にされる空気が
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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