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<門田博光さん追悼>“不惑の大砲”は晩年もフルスイングを貫いた

 ‘21年5月中旬、兵庫県の相生駅周辺にあるビジネスホテルで、ある男と待ち合わせをしていた。昨年4月に刊行した拙著『確執と信念 スジを通した男たち』を書くにあたって、絶対に欠くことのできない人物の取材だった。

“稀代の豪打者”と孤独

門田博光

’21年取材時の門田博光(当時73歳)

 相生駅までは品川駅から新幹線で4時間弱。緊張とともに胸の高鳴りを感じながら無機質なプラットフォームに降り立ち、駅を出た瞬間に動揺が走った。今にも豪雨が降ってきそうな空模様だ。閑散とした駅前の雰囲気と相まって、寂しげな雰囲気が身体を纏った。 「あの人はこんなところに住んでいるのかぁ」  そんなことを思いながら、すぐさま頭の中で取材の構成を反芻し待ち合わせ場所まで歩いていく。 「かつては奈良に豪邸を建てたとテレビでもよく取材されていたのに、なぜ今の住まいはこの場所なんだろう……」  山間の景色を見渡しながら、そんなことがふと頭をよぎったのを覚えている。  週に3回透析を受けており、体調があまり優れないと取材前から聞いていた。だからこそできるだけ負担のない取材にしなくてはと思いながらビジネスホテルの前に立っていると、グレーの格子柄のスーツを着た小柄な老人が近づいてきた。「こんにちは〜」と軽く会釈をしてくる。あまりに力感のない掠れた声に、一瞬脳が混乱した。  その小柄な老人こそが、門田博光だった。170cmそこそこの身長ながら、豆タンクのような逞しい体躯を誇っていた男が、老齢も相まって痩せ細り、実年齢よりもかなり老けて見えた。もはや別人にしか思えなかった――。

球史に燦然と輝く成績を残すも……

「死と生が一日おきに繰り返す感じで、あまり体調はええことありませんわ」  当時73歳の門田博光は、開口一番にそう語った。弱々しい声だったが、努めて明るく振る舞おうとしている様子がうかがえる。年齢による老けもそうだが、体調の悪化により老年度が増してしまったのは明らかだった。 「友人はいません。ローンウルフです。“19番”(野村克也)との一件から、勝負の世界はひとりでいいと思い、一切人を寄せつけなかった。引退したら横の繫がりがないから大変やね。話し相手もいないし……」  門田は静かな笑みを浮かべ、息を吐くようにそう言った。’70、’80年代に南海ホークス、オリックス・ブレーブスで活躍した往年の大スラッガーの絞り出した吐息はあまりに儚く、切なかった。  打者にとって最高の名誉でもあるホームランの歴代通算第一位は、言わずと知れた“世界の王”こと王会長こと王貞治(現福岡ソフトバンクホークス取締役会長)の868本だ。次に、選手としてだけでなく名将とも謳われた野村克也の657本、そして第三位に門田博光の567本が食い込む。また好打者の条件とも言える歴代打点数を見ても、一位に王貞治の2170打点、二位に野村克也の1988打点、ここでも三位に門田博光が1678打点で名を連ねる。  ホームラン数、打点数ともに王、野村という大レジェンドに次ぐ歴代三位の記録を残しながら、門田は引退後、監督はおろかコーチも一度としてやっていない。王、野村が現役時のみならず引退後の功績も華々しかっただけに、門田の引退後が極端に寂しく思えた。引退後はテレビ中継の解説者などでたまに見かける程度で、指導者の道へと進まなかった。縁あって’11年には関西独立リーグ「大阪ホークスドリーム」の監督をシーズン途中から1シーズンやっただけで、その後は次第に世捨て人のように音沙汰を聞かなくなっていった……。
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門田が伝えたかったこと
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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