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“復興”とは程遠い現実。「無人の町で、家畜と暮らし続けた男性の10年」を描いた理由

「復興五輪」のアピールのために

ナオト、いまもひとりっきり

双葉町を走る聖火ランナー (C)八尋伸

――劇中には再築された夜ノ森駅も登場しますが、駅舎の中には放射線量を表示する電光掲示板がありました。 中村:あれは「除染したから大丈夫です」とアピールするためのものなのですが、その瞬間の空間線量が表示されるだけなので、もちろん、風が吹けば花粉のように山から放射能が降ってきて、数値は上がります。 そもそも夜ノ森駅周辺は期間困難区域なのですが、2020年3月に、東京オリンピックに合わせて駅舎が完成し、駅に行く車道だけが開通されました。東京の日暮里駅から夜ノ森駅まで常磐線を通すことによって「復興五輪」をアピールしたかったのかもしれませんが、そこだけ無理矢理線路を通している、という印象は拭えませんでしたね…。 しかも、2017年4月に町の一部が帰還宣言をしましたが、戻ってきたのは高齢者がほとんど。2018年4月には富岡駅が開通し、町の小学校と中学校が再開しましたが、新たに入学した子どもたちは数名だけでした。町の中は「復興」とは程遠い状態でした。 ――結局、五輪はコロナで延期になってしまいました。 中村:福島から聖火ランナーが走り、「復興五輪」は華々しく開催される予定でしたが、コロナ禍でそうはなりませんでした。 実際は、翌年に街頭の人たちが見守るわけでもなく、警察官とランナーの人だけがひっそりと走っていました。まるで「警察の運動会」でしたね…。もちろん、コロナ禍もあって見物客は入れないことにしていましたが、それにしても人がいなくて。そもそも双葉町と大熊町はほとんど人がいないんです。誰のための「復興五輪」「聖火リレー」なのかと。 東京オリンピック開催決定以来、この10年間で感じたのは「人が置き去りにされた復興」ということでした。安倍元首相が東京五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会の場で「アンダーコントロール」いう言葉を使ったことは有名ですが「福島は大丈夫ですよ」ということを言うためだけに、実施されたことが多かったような気がします。そして、その大義名分のためにものすごいお金が使われました。でも、多くの元の住民は戻って来ていません。

ゴミを掃除してゴミをばらまく

――除染はほぼ完了し、福島は復興へ向けた次の段階に入っているというニュースを耳にします。 中村:2013年から定期的に福島に通っていましたが、北海道から沖縄まで県外のナンバープレートはたくさん見ましたし、外国籍の人もかなりの数いました。みなさん、除染作業をしており、高額な報酬も支払われたと聞いています。 にもかかわらず、除染土を農業に再利用しようとしていることに驚いています。放射性物質が完全に取り除けているのかどうかもわからないのに、放射性物質を拡散させるような行為をしようとしています。ゴミを掃除して、またゴミをばらまくというような行為に何十憶という税金が使われている。 また、除染土の扱いについては、2011年8月に成立した放射性物質汚染対処特別措置法に定められていますが、ここに、再利用に関する規定はありません。なぜ、こんなことが許されるのか…。理解に苦しみます。 災害公営住宅もたくさんありますが、3分の1ぐらいしか入っている様子がありません。3分の2は人が住んでいない、つまり無駄なのです。除染も災害公営住宅の建設も然り「復興対策をした」というパフォーマンスが重要なのかもしれません。誰のための復興なのか、ということは強く考えさせられました。
帰還困難区域ゲート

(C)劇場版 ナオト、いまもひとりっきり

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バブル崩壊、原発事故に翻弄されて
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ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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