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“復興”とは程遠い現実。「無人の町で、家畜と暮らし続けた男性の10年」を描いた理由

バブル崩壊、原発事故に翻弄されて

ナオト、いまもひとりっきり

(C)劇場版 ナオト、いまもひとりっきり

――ナオトさんは高校卒業後の70年代後半、鉄筋工として原発建設に関わっていたとのことでした。 中村:そうなんです。それで「あんなもん、雑に作ってあるから簡単にぶっ壊れる。作った本人が行っているのだから間違いがない」とナオトさんは冗談交じりによく言ってました。原発稼働には、冷却水を循環させることが必要なので海辺に設置されていますが、排水溝に貝が付着して詰まるのだそうです。さすがに現在は、細部にも配慮して設計されているとは思いますが、高度経済成長期の当時、一気に作られていれば、雑な作りになってしまうのも仕方がないのかもしれません。 その後、ナオトさんはバブル期に関東近辺に出稼ぎに行き、フィリピン人の妻と結婚、2人の男の子をもうけます。その後、東京で建設会社を経営しますが、90年代にはバブル崩壊で会社が倒産。家族を連れて生まれ故郷に富岡町に戻りますが、ささいなことで奥さんと上手く行かなくなり、彼女は息子2人を連れて出て行ってしまいます。そして、離婚後、実家に戻り、両親と暮らすようになります。 ナオトさんにとって原発事故は、バブル崩壊に続く、理不尽だったのかもしれません。富岡町に留まり、家畜と暮らし、自給自足生活をしているのは、「悪いことをしたのは国で、自分は何もしていない」という憤りがあったからなのですが、自分の生き方は自分で決めたいという思いもあったからなのかもしれません。 もちろん、除染作業などの求人もありました。でも、もう東電からお金を貰う仕事はしたくなかった、とのことで…。

原発地域が抱える矛盾

――劇中の「福島に日本社会の矛盾が凝縮されている」というコメントが印象に残りました。 中村:福島だけでなく、原発のある地域全てに言えることのような気がしています。父の実家は原発が15基もある福井県の出身ですが、毎年「日本の幸せ度ランキング」の1位2位を争う県で、子育て支援も手厚いです。そしてそのことは原発を受け入れたことと無関係ではありません。 産業がなく、貧しい地域に「お金をあげるから危ないものを引き受けて欲しい」という姿勢があるのではないかと。福島、福井、柏崎原発のある新潟もそうで…。ナオトさんも「金を貰う代わりに政府から捨てられている」と言っていましたが、「棄民政策」と呼んでいいぐらいに、そのスタイルが定着しています。お金を受け取ると政府や電力会社を厳しく批判することはどうしても難しくなってしまう。ある意味、お金に毒されている地域と言っても過言ではありません。
ナオト、いまもひとりっきり

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ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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