医療AIは未来ではなく、現在の話である
AIメディカルサービスの多田智裕CEOと筆者
世界一の超高齢化社会である日本は、「医療費削減」「健康寿命延伸」の観点で、医療AIなしでは存続し得ない。AI医療機器は、診断・治療・予後予測・予防などにおいて大きな有効性を持つからだ。そのため、海外ではAI医療機器の臨床応用が急激に進んでいて、大病院では医療AIを積極的に駆使するのがすでに当たり前になっている。
しかし、国内では未だに「医療AIは未来の話」として認識されることが多く、あっという間に医療AIの波に大きく乗り遅れたので、承認済みAI医療機器の数で圧倒的な差が生じてしまっている。
・アメリカのAI医療機器数:約520製品
・韓国のAI医療機器数:約140製品
・日本のAI医療機器数:約20製品
日本の医療分野における逆境を打破するには、約40年前にCTやMRIといった新技術で医療を革新したように、AIを駆使して「新たな医療の在り方」を築く以外の道はないのに、だ。
医学の父・ヒポクラテスは、医術の練磨と同じくらい環境の整備も重視し、こんな言葉を残している。
「人生は短く、術のみちは長い。機会は逸し易く、試みは失敗すること多く、判断は難しい。医師は自らその本分を尽くすだけでなく、患者と看護人にもそれぞれのなすべきことをするよう促しつつ、『環境』もととのえなければならない」
もしヒポクラテスが現代に生きていたとしたら、医師と医療AIの二人三脚の重要性を力説していたのではなかろうか。
そこで、医師でありながら医療AI開発も手がける、累計138億円を調達した内視鏡AIスタートアップ
「AIメディカルサービス」の多田智裕CEOに、医療AI開発の現在と未来および日本の“勝ち筋”についての本音を探った。
AIメディカルサービスにおける、AI開発ミーティングの様子
カリス:医師と医療AIスタートアップCEOという両方の立場から、AI医療機器の現在と未来について聞かせてください。まず、そもそもAI医療機器とは何か説明していただけますか。
多田:AI医療機器とは、使用目的・提供形態などから医療機器に該当する、AI技術を用いた製品です。現在の主流は、X線・CT・MRI・内視鏡などの画像診断支援AIで、代表的な国内製品として、LPIXELの放射線画像診断支援AIや、当社AIメディカルサービスの内視鏡画像診断支援AIなどがあります。
カリス:AI医療機器は臨床現場で実際に有効ですか?
多田:画像診断支援AIは「見落とし防止」と「読影時間削減」に直結するので、患者と医療従事者の両方にとって大きなメリットがあります。それにも関わらず、日本は承認済みAI医療機器の数で圧倒的に遅れてしまっています。そこで、国産AI医療機器の開発を促進すべく、2019年に「AI医療機器協議会」を3社で立ち上げました。現在は16社で、AI医療機器の迅速な審査承認スキームの確立、簡易的な定期バージョンアップの実現、有効性の周知などを目的として日々活動しています。
カリス:日本政府も同調していますよね。
多田:近年は、AI医療機器の開発促進に向けた施策が相次いでいます。内閣府が政権の重要課題の方向性を示す「骨太方針2021」には、「プログラム医療機器の開発・実用化の促進」が初めて盛り込まれました。「AI戦略2022」でも、「医療分野でのAI利活用への注力及び、医療機器の開発・研究における患者データ利用の環境整備」が言及されています。
カリス:僕も前職で
「AI医療機器協議会」に関わっていたので、状況は良く理解しています。残念ながら、AI医療機器の分野で日本は後塵を拝していますね。世界的に有名な医療AI企業は日本に一社もないですし。日本がここから奮起し、一発逆転を果たすことは可能でしょうか。
多田:医療AI開発においては「教師データ」となる医用画像の質と量が重要ですが、そこでは日本の強みが活かせます。たとえば、当社が取り組む内視鏡機器は、国内メーカーが世界シェアの9割以上を占めており、医師の検査レベルでも世界を大きくリードしています。
カリス:僕もまさに日本の強みは医用画像の質と量にあると考えています。院内に眠ったままの、多様かつ良質な医用画像データをAI研究開発にうまく活用できれば、医療分野における逆境を逆手に取ることはできるはずです。そこに、AIメディカルサービスはアプリケーションの面で、当社
Callistoはインフラの面でプレゼンスを示せたら嬉しい限りです。
「医療費や高齢化の問題に対して、AIをどう使うかをみんなで考えていかないといけない。たとえばAIにできるところはどんどん任せ、人が行う重要な部分にリソースを集中していくとか」--松尾豊(AI研究者)