日本社会の豊かさの喪失は「一律教育」が原因
日本の教育は、遺伝が知能や学業成績に与える影響を完全に無視してきた。「機会の平等」ではなく「結果の平等」を追求してきた結果が、「独創性のぶつかり合い」という健全な競争を阻害し、日本経済の「失われた30年」をもたらしたのだ。
・「1人当たりの名目GDP」ランキングの下落
・「企業の時価総額」ランキングの下落
・「影響力の大きい論文数」ランキングの下落
・世界一の少子高齢化
・東京一極集中
・税と社会保険料負担率の上昇
こうした日本社会の豊かさの消失は、誰もが実感しているはずだ。その最たる理由は、生徒の才能や素質といった「遺伝情報」を無視し、一律のカリキュラムを課している教育にあると僕は思う。
空気を読む。黙々と授業を受ける。全教科の成績をまんべんなく伸ばす。この受動的なモデルは、「教育」ではなく、「指示」に過ぎない。
全人類は99%以上のDNA(=設計図)が共通しているが、残り1%未満のDNAの違いで、以下のような大きな個人差が生じる。
・目の色:遺伝の影響が9割超え
・体重:約7割
・学業成績:約6割
だから人生においては、個人の遺伝情報という持って生まれた「天性」を発見し、活かしていくことがとても重要である。それは医療だって、教育だって、同じであるはずだ。
そのため、アメリカやイギリス、オランダなどの欧米諸国では、生徒が自身の遺伝的傾向も踏まえて、自ら経験を選んだり、変えたり、作り出すことを尊重すべく、「自分に合った学び方の学習」と「楽しく学ぶこと」を教育の軸として大切にしている。
教師は「教える人」ではなく、あくまで「学びをサポートする人」という位置づけ。その結果として、自身のポテンシャルを最大限活かすことができるから、海外の人の方が激変する世界の中で競争力を発揮できているのだ。
高度成長期においては、「教育の規格化」によるモノの大量生産が必要不可欠だった。しかしAI/ロボット時代においては、「教育の個別化」による希少価値の発揮が求められている。
「教育が進歩しなければ、社会もまた進歩しない」(ジョン・デューイ)
それぞれの“天性”を最大限生かす“育成”を図るのが教育の目標
行動遺伝学の第一人者であるロバート・プロミン教授によると、知能とは遺伝と環境から成り、知能の5割は遺伝で決まるらしい。さらに、知能において遺伝が占める割合は、加齢とともに高まっていくことが、一卵性/二卵性双生児の大規模追跡研究などによって広く知られている。
おおまかに示すと、以下のような割合だ。
幼年期:2割
幼少期~青年期:4割
成人期:6割
老年期:6割
人は加齢とともにさまざまな経験を重ねるので、一見遺伝の割合も低くなるように思える。しかし、人間は遺伝で引き継いだ自身の知能を高めるべく、自身の学習能力に合った難易度の環境を自ら選んでいくから、知能における遺伝の割合は雪だるま式に大きくなっていくのだ。
これは、知能とは基本的には「学習能力」であり、脳は「一般問題解決ツール」として進化してきたことを踏まえると、当然とも言える。
たとえば、数学・英語・生物を含むあらゆる分野の学習にも、記憶力・言語能力・空間認識力を含むあらゆる知能の駆使にも、ほとんど同じ遺伝子が使われる。
「一芸に秀でる者は多芸に通ず」と言われているように、数学ができる人は英語もすぐ学べる「可能性が高い」し、記憶力が高い人は言語能力も高い「可能性が高い」。
知能における遺伝の重要性は、過去よりも遥かに高まってきた。平等が広まって環境を自身で選べるようになった分、遺伝で引き継いだ知能のポテンシャルを引き出すことが容易になったからだ。
そのおかげで、50年前の人よりも現在の人の方が賢いことが分かっている。しかし残念ながら、日本の教育は50年前から大きな進歩がないように思える。
誰もが学力向上にこだわる必要はないし、ましてや「同じ学力」「同じ知識」を身につける必要なんてない。共通のカリキュラムは、子供が自身のポテンシャルを発見し、社会で騙されずに主体的かつ幸せに生きるための最低限だけでいい。
人間は機械ではないから、才能や興味のベクトルも総量も人それぞれ。できない子はできないから、できる子になれる他の方法や対象を与えればいいし、できる子はできるから、どんどん難しい問題を与えればいい。これが、目標と戦略である。
「われわれの容姿や容貌、才能や素質、ある病気にかかる傾向が強いといった各人の特徴はすべてゲノム、遺伝情報としてDNAの中に刻み込まれており、この持って生まれたゲノムは宿命とでも言おうか、決して変えられないのだということ、勿論、平等ではないことを生徒、父母、教師すべて認めなければならない。先ず、自分の“天性”の発見に努め、次に、それが個性的な光彩を放つよう“天性”を最大限生かす“育成”を図るのが教育の目標である」(江崎玲於奈)
1993年、韓国生まれ。16歳で東京大学に合格。日本政府から天才認定(学生としては初めて、研究業績だけで永住権を取得)を受ける。博士(情報理工学/東京大学)。英・ケンブリッジ大学/独・ミュンヘン工科大学/伊・ミラノビコッカ大学で訪問研究。⽇本トップレベルの医療AI研究者であり、「みんな健康かつ笑顔で暮らせる社会」を実現すべく、医用画像データプラットフォームを手がける
Callisto株式会社を創業。YouTubeチャンネル『
カリス 東大AI博士』にて、科学的勉強法・科学的思考法・AIなどについて配信中
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