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日本がアジア太平洋で自由主義陣営を支えなくて、誰が支える?/倉山満

マスコミの「対中包囲網」など幻想

 日本の一部マスコミの言うような「対中包囲網」など幻想で、むしろ我々が包囲されているくらいだ。これを毛沢東理論で「農村から都市を包囲する」と言う。毛沢東は国民党との内戦に勝って共産党政権を樹立したが、農村部に浸透、包囲を狭めて都市を陥落させた。これを国際政治でも実践した。大躍進政策で自国民が何千万人餓死しようが、アフリカに食糧支援を行っていた。そうした何十年もの努力の甲斐があり、アフリカのほとんどの国が「中国の票田」の如く従属している。毛沢東にしろ、今の習近平にしろ、「何十年かけてでも世界を征服する!」が、国是なのだ。そして経済力でアメリカを抜けば、台湾など自然と落ちる熟柿(じゅくし)戦略を考えている。  これまた一部マスコミは「ウクライナ情勢に乗じて明日にでも中国が台湾に侵攻する」と煽る。そんな可能性はゼロだとまでは言わないが、今の中国に、自ら作り上げた有利な国際情勢を壊すモチベーションがあるだろうか。それよりも、中国は台湾相手には「戦わずして勝つ」、あと二十年くらい待ってでも。と、企んでいると想定する方が妥当だろう。

タイやトルコも米中のストラグルの一戦線

 だいたい、台湾進攻に備えるのと、熟柿戦略に備えるのも、あまりやることは変わらない。経済力を蓄え、軍事力を強め、外交交渉を行う。軍事抜きの外交は無力だし、経済力無しの軍事力は破綻する。現にアメリカも日本にそうした努力を求めてきている。  世界中で米中のストラグルが行われているが、タイやトルコも当然その一戦線だ。  タイは民主政権が腐敗するたびに軍がクーデターを起こし、正常化する。最近の民主勢力の背後には、中国がいると目されてきた。今回、プラユット陸軍大将の内閣が総選挙で敗れた。中国がどう出るか。タイに限らず、東南アジア諸国は経済的には中国に依存している。政局の混乱には、いったん静観。その後、影響力を行使することを考えるだろう。  トルコはNATOに属しながら、ロシアとも“杯をかわす”ような二股外交を繰り広げてきた。そうしたアクロバティックな外交を可能にしたのは、エルドアン大統領が20年に及ぶ超長期政権を樹立しているからだ。それが今回の大統領選挙では大接戦となった。決選投票となったので有利とはみられているが、仮にエルドアンがいなくなるとトルコ外交は急速に視界不良となる。こちらは、選挙結果を待つのみ。
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今の尹錫悦韓国大統領は真人間と評して良い
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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