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統一地方選・「維新躍進」の”特殊性”<著述家・菅野完>

維新による大量のYouTube広告

 維新には組織がない。だとすれば維新が相手にするのは不特定多数の「マス」である。その「マス」があたかも人為的かつ機械的な計算の結果のような答えを出したのだとすれば、「マス」が人為的かつ機械的に操作されたのだと考えるしかあるまい。「マス」を人為的かつ機械的に操作する手法と言えば、「マスマーケティング」そのものに他あるまい。  事実、維新は東京都内で大量の広告を出稿した。しかしこの広告はビラやポスターの類ではない。主戦場はネット、とりわけYouTubeであった。しかもその広告出稿は、厳密な地域割りに基づいて行われており、視聴者のアクセス場所に基づき、その地域地域の候補者の政権放送のような動画広告がYouTubeに流れるという仕組みだ。  統一地方選挙後半戦最中の某日、筆者は、港区の自宅を出発し、北区、千代田区、世田谷区、練馬区、国分寺市、三鷹市をへめぐる取材をおこなった。その最中に確認のためにYouTubeの広告をチェックしてみたが、筆者が移動するたびにその地域の維新の候補者の動画広告が流れた。おそらく携帯の位置情報を読み取っているのだろう。  さらに維新は、告示後も手を変え品を変え動画広告を出稿していた。告示後の候補者名を明示し投票を呼びかける広告は公選法に抵触するおそれがあるため、流石にそれは避けていたが、巧妙に市民団体に擬態し市民団体の政治運動広告かのように装った広告を投開票日まで出し続けたのだ。統一地方選期間中、東京都内におけるYouTubeの広告は維新にジャックされていたと言っていい。  ただし注意すべき点がある。こうした勝ち方を維新が収めたのが東京都内にとどまるという点だ。その他の地域でも維新は同じような戦い方をしたが、例えば愛知県などでは惨敗と言っていい結果に終わっている。おそらくそれは、日本においてYouTube広告を用いたマスマーケティングが成立する地域が東京都だけにとどまるからであろう。他の道府県ではそもそもの人口絶対数が少ないため、いかに巧緻な地域割り広告を出稿したところで得票数に響くほどの数が稼げない。先ほど「維新は勝ったが、その勝ち方に全国的な一定の傾向が見られない」と書いたのは、こういう事情による。東京が「維新躍進」の代表事例なのではない。特殊事例なのだ。

近畿圏にみる「TVメディアの影響」

 もう一つの特殊事例が、なんと言っても大阪を中心とした近畿地方だろう。「大阪府以外で初めての維新知事誕生」と騒がれた奈良県知事選挙は、自民党奈良県連の会長である高市早苗の調整力不足で自民党分裂となった選挙であるから、土台「維新の勝ち方の傾向」を考える材料として除外するとして、異常なのは衆院の和歌山一区補選である。勝利を収めた維新公認の林佑美氏の選挙は、そもそも選挙と呼べるようなものではない。なにせ空中戦しかないのだ。現場の様子も実に情けないもので、林候補単独では辻立ちに人が立ち止まることさえない。吉村など維新の〝顔〟がくるときだけ、群衆が生まれる。  一方、自民党公認の門博文陣営は、保守王国和歌山の自民党支持組織を固めに固め、一方で徹底したドブ板を展開する盤石の選挙運動を展開した。にもかかわらず、6000票もの差で、空中戦のみの維新候補に負けてしまっている。  こうした事例は近畿地方の各地で見受けられる。「維新」の看板を掲げれば、たとい選挙運動らしい運動をしなくともすっと当選してしまう事例が実に多い。  近畿地方における維新の異常な勝ち方を説明するには、やはりテレビメディアの影響を指摘せざるを得ない。「維新の強さ」の理由を、テレビに求めるのは使い古されていささか的外れなものであることは十分に承知している。しかしながら、今回の統一地方選挙ばかりは違う。これまで「テレビの影響論」が的外れなものとなっていたのは、「維新の大阪での強さ」を説明する材料として「テレビ」では説明できない要素――たとえば自民党大阪府連の他府県に例を見ないほどの為体ぶりなど――が多分に存在するからだ。  しかし今回、維新は「紀伊半島全域」で異常な強さを示した。問いは「維新の大阪での強さ」ではなく「近畿地方での強さ」だ。であれば、やはりその理由の筆頭として「テレビ」をあげざるを得ないだろう。  次月号は、今回の統一地方選挙・衆院補欠選挙で見せた維新の近畿地方における強さの背景を分析する。 <文・菅野完>
統一地方選後半戦 主要政党の1位当選者比率(東京都内)

統一地方選後半戦 主要政党の1位当選者比率(東京都内)

初出:月刊日本2023年6月号
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月刊日本2023年6月号

特集①高まる核戦争の足音
亀井静香×倉重篤郎 米大統領に広島の地を踏む資格なし 
加藤尚武 「正義の戦争」に歯止めをかけよ
副島英樹 米国は原爆投下の非を認めるべきだ
村田三平 核廃絶と脱原発こそ日本の歴史的使命だ
鈴木宗男 世界の平和都市・広島で戦争を煽ってはならない

特集②テロと民主主義の崩壊
内田 樹 民主主義への絶望がテロを生み出す
片山杜秀 なぜ五・一五事件は共感を呼んだのか
中島岳志 テロが「有効な手段」と認識されるようになった
「人を殺す自由」は誰にもない 横山孝平

石橋湛山没後50年
岩屋 毅 いまこそ、日中米ロの平和共存を目指せ

著者に聞く
『ハマのドン』(集英社新書)の著者・松原文枝さん

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