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「敵基地攻撃能力」という落とし穴。リアルな国防に勇ましい言葉は不要<慶大名誉教授・法学者 小林節氏>

―[月刊日本]―

にわかに盛り上がる「敵基地攻撃」論

自衛隊

写真はイメージです

 ロシアによるウクライナ侵攻というまさかの現実を前にして、ロシア、中国、北朝鮮という非友好的諸国と隣接しているわが国では、にわかに国防論議が盛んになってきた。  政権政党・自民党の安全保障調査会は、「敵基地攻撃(反撃)能力」(先制攻撃能力?)の保有、防衛費をGDP2%以上に、米国との核共有、反撃の対象に敵国の指揮統制機能(指令中枢)も含む等の勇ましい提言をまとめた。 「敵基地攻撃」論は、ある意味で分かり易い議論である。  1956年(鳩山一郎首相)当時は、敵からまずミサイルの第1撃を受けた場合、わが国は滅んでおらず、敵のミサイルは特定の基地から発射されていた。だから、その基地を叩き返すことで以後の発射を止めることはできた。そこで、当時の政府は、「現に急迫不正の侵害を受けて、他に防衛手段がない」以上、敵基地攻撃は専守防衛の正当な手段の内だと考えたのであろう。「憲法を守って国が滅んで」良いはずはないのだから。  しかし、その後、技術の急速な進歩の結果、議論の前提が変わってきた。まず、ミサイルの弾頭の威力が向上し、スピードが上がり、迎撃難度が増した。加えて、一機で複数の弾頭を搭載するミサイルや、途中で進路を変更するミサイルまで現れた。そこで、こちらがやられてしまう前に、相手が発射準備に入った段階でそれは既に攻撃「着手」なのだから反撃することは許されるとしないと国が守れないと考えるに至った。さらに、列車や台車や潜水艦からの発射など、発射自体が神出鬼没になったために、ついに、敵の指揮命令の中枢を叩かなければ自衛にならないという結論に至った。  しかし、これでは要するに「やられる前にやるしかない」という先制攻撃論で、それこそ、自衛しか許していない国際法と憲法に違反してしまう。

国際法を無視した「敵基地攻撃能力」論

 もちろん、憲法9条違反だけなら、それこそ「憲法守って国滅ぶ」では本末転倒であるから、自国の憲法を改正すれば済む。  しかし、最上位の国際法である国連憲章(51条)や不戦条約(1条)等をわが国の都合で無視することなどできるはずがない。  しかも、国連憲章53条の存在を忘れてはならない。同条1項は、要するに、「日本などの第二次世界大戦の旧敵国における侵略政策の復活に対する地域的国家連合による軍事的措置には安全保障理事会の承認は要らない」旨を規定している。  だから、「敵基地攻撃能力」論は、「今のウクライナから常に脅威が発せられる中で、ロシアは安全を感じることも発展することも存在することもできない」(2022年2月24日、プーチン大統領の演説)などと「被害妄想」のような理由で侵攻を始めたロシアが、「日本の軍国主義の復活」を理由に中国と北朝鮮を誘って日本に侵攻する口実を、こちらから与えている様なものである。  しかも、今、わが国では、「勇ましい言葉だけ」で、具体的には自衛力はいささかも向上してはいない。
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「敵基地攻撃能力」論の前にやるべきこと
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【特集2】ロシア、その知られざる実像
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