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健康診断が「病人を生む」カラクリとは?実は“基準値”は頻繁に変わっている

年に一度、体の状態を知らせてくれる健康診断に今、疑問の目が向けられている。厚生労働省が内容の見直しを検討するなど、「本当に効果があるのか?」という声が高まっているのだ。健康診断の結果は本当に鵜呑みにしていいのか。その裏にある“医療のホンネ”に迫った!(以下、医療ジャーナリストの室井一辰氏の寄稿)

健康診断の基準値はどう決まる?

[健康診断]の罠

医療ジャーナリストの室井一辰氏

 9月3日、日経新聞が「厚生労働省が健康診断の項目を変更する」と報じていた。その内容は、健康診断ではおなじみだった胸のX線検査が廃止されるなど衝撃的なものだ。  ただ、実は一口に健康診断と言っても、特にがんについてだが、「対策型」と「任意型」という2つのタイプがあるのをご存じだろうか。  まず、対策型は主に自治体が実施しているもので、住民健診ともいわれる。住民健診の検査は、受けた人の死亡率が減ったりQOL(生活の質)が改善すると証明されたものに絞られている。よって医療費削減などに繫がり税金を使って検査するメリットがあると認められている。  一方、任意型はいわゆる「人間ドック」のこと。こちらは、受ける本人の希望でオプション検査を選べるようになっていて、がんのマーカー検査やCT検査などさまざまな検査が行われる。会社員が毎年受けている健康診断もこちらだ。  しかし、人間ドックの検査項目には、住民健診と比べて科学的根拠が乏しいものも含まれるため注意が必要だ。冒頭の厚労省による変更のお達しも、どうやら人間ドックに関係するという話を聞いている。今後、“効果が疑わしい検査”には何らかのガイドラインができる可能性がある。

実は「基準値」は頻繁に変わっている

 健康診断を受ける際、皆さんが気にするのは基準値だろう。血圧や血糖値など項目別に正常範囲が示され、そこから外れると「要注意」「要精密検査」などとされる。  この基準値は、最新研究の結果や医学会の意向、各国の政策など多くの影響を受けて決まるので、実は固定されたものではない。医学会のガイドラインは定期的に更新されており、「昔受けたときの基準値と変わっている」と気づく人もいるかもしれない。  例えば日本の高血圧の基準は、1980年代には180/100mmHgだったのが、今では140/80mmHgに引き下がっている。最近も、中性脂肪が空腹時とそうではないときとで分けて基準値を設けるように変更が提案されており、今後、「空腹時中性脂肪」という聞き慣れない言葉も浸透していくことになりそうだ。
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「過剰診断」や「過剰治療」が生み出されている問題
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