更新日:2023年10月07日 19:05
ライフ

父の葬式で“喪服を着なかった”母と絶縁…宗教2世の娘が振り返る「母が歪んでしまった理由」

「宗教2世が世間を騒がせる事件を起こすたび、『先を越された』――そんなふうに思っていました。同時に、『自分が殺人犯になっている世界線もあったかも』などと本気で考えていました」  言葉を慎重に選びながら内面の葛藤を口にするのは、水野宏美氏(仮名・40代)だ。山上徹也被告による安倍晋三元首相襲撃事件を想起させる発言に驚くが、こちらの意図を察したようにこう続けた。 「もちろん、人の命を奪うことは許されないし、実行しようと具体的に考えたことはありません。けれども、宗教によって家庭や人生がめちゃくちゃになった人は多く、それを黙殺してきた社会に恨みを抱く人は相当数いると私は思います。極限まで追い詰められれば、大量殺人という過ちを犯す人がいたとして、不思議はないといまだに思っています」
泣く女性

画像はイメージです ©nfuru

「きちんとしているタイプではなかった」母

 水野氏は、宗教を信仰する母親との縁を事実上断ち切った、宗教2世である。氏が母親を「おかしい」と感じたのは、かなり昔に遡る。 「母はもともとそそっかしいというか、あまり社会人としてきちんとしているタイプではなかったと思います。幼少期の記憶にあるだけでも、家や自転車の鍵をよく無くしたり、幼稚園に持っていくお弁当を忘れたり、細かいことかもしれませんが、『この人、大丈夫かな』というやや冷めた目で私は彼女を見ていました。  一方の私自身は、文字の読み書きが他の子どもより早い段階でできたり、人を見て発言や態度を変えるような感じの、やや大人びた子どもでした。母にとって“やりづらい”子どもだったのでしょう。当時から、折り合いはあまりよくなかったと感じます」

子の世話をせず、放置されたこともあった

 とはいえ、殴る蹴るの暴力を受けた経験もなければ、信仰を強要された覚えもない。ただ純粋に、母親への違和感と不信感だけが募っていった。 「幼稚園生くらいのころから、心身ともに健康な他の母親とは明らかに違う部類の女性だなと感じていました。当時の私は、完全な放置子だったと思います。日中、母は寝ていて、私の世話などは一切しません。私は家にいても退屈なので、寝ている母を尻目に外出します。狭い集落で、だいたいの人が私を暖かく受け入れてくれたので、人の情みたいなものは他人から教わったのかもしれません。 放置といえば、実際に母と外出した際に置き去りにされたこともあります。本当に私を忘れていたようでした。そんなこともあって、当時からなんとなく、『母には、私や家族よりも大切なものがあるのではないか』とは漠然と思っていました」
次のページ
「人を疑うことを知らない」からこそ…
1
2
3
4
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ