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「マンションの壁が血で染まった」家庭内暴力を受けたアイドルが“傍観する母親”に感じた絶望感

“世界に違和感を覚える人と共に生きるコミュニティを目指す完全セルフプロデュースアイドルグループ”――地下アイドル『アイドル失格』の公式X(旧Twitter)のプロフィールに書かれた言葉だ。  若さや可憐さを武器にするアイドルのイメージと一線を画し、世の中に媚びない強い意志さえ感じられる。  表現者なら誰しもその裡に耐えがたい葛藤を抱えているが、華々しくステージを舞う蝶たちが見た「違和感」の景色とはどのようなものか。その生き様に迫る。 「実の父親はヤクザです」  そう話すのは、アイドルグループ『アイドル失格』の生みの親・えんじてゃ氏だ。同氏はプロデューサー兼リーダーとして辣腕を振るう。 「父は、泣いている3歳くらいの私の口に延々とティッシュを詰めて黙らせたり、飼っている猫の鳴き声がうるさいからと冷蔵庫に入れたりと、凶暴な発想の持ち主でした」  淡々と語られるエピソードはどれも顔をしかめずには聞けないものだが、えんじてゃ氏の「ただ、本当に危険なのは、父ではないんですが」の一言ですべてがひっくり返る。
えんじてゃ氏

えんじてゃ氏

母は“男性からモテる要素を詰め込んだ女性”

   父親の暴力がひどくなり、えんじてゃ氏と母親、妹が逃げてきたのは、氏が5歳前後のこと。いかにも頭の回転が速く、鼻っ柱の強い自律的な女性を思わせる氏だが、母親とはタイプが真逆だと述懐する。 「母親は可愛くて茶髪のゆるふわロングで、簡潔にいうと“男性からモテる要素を詰め込んだ女性”だと思います。それが災いして、粘着質な男性との縁が切れない人でもありました

母の彼氏と同居するようになるが…

 父親から逃げた先でしばらく生活保護を受けながら一家で暮らしていたが、経済的な安定が欲しい母親は、自らの魅力で虜にした男性に依拠するようになる。 「母の彼氏と目される男性はひっきりなしに自宅に出入りしていましたが、歴代の男性でもっとも危ない人間を彼女は選び取りました。私が小学校5年生くらいのころ、その男の所有するマンションに引っ越すことになったんです。  その彼氏は、通常は人が怒らないようなことで激怒するなど、どこに地雷が埋まっているかわからない人でした。くわえて、私は生意気でよく口答えをしていたためか、家族のなかでも目をつけられていて、標的にされていました
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塾の体験授業に行ったら「3時間正座させられた」
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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