完璧主義のアナウンサーが発声障害に…「噛んでも命を取られるわけではない」と思えるようになるまで
「2022年4月ころ、喉に違和感を感じました。最初は風邪を引いてしまったと思ったんです。しかし『声が出しづらい』という感覚はその後も解消せず、喉仏のあたりで蓋をされてしまっているような状態がしばらく続きました」
そう話すのは、山田祐也氏(29歳)だ。愛媛県のTBS系列放送局・あいテレビ(ITV)に所属する現役のアナウンサーであり、Nスタえひめ(月曜日~金曜日18時15分より放送)のニュースキャスターを務めている。小学校から始め、高校時代の怪我が原因で大学で引退するまでバスケットボールに打ち込んできた体躯は183センチ。一方で高校・大学時代は弁論部でならした二刀流で、アナウンサーも「スポーツと言葉が交差する」という理由で選んだ。
過緊張性発声障害――。
その病名にたどり着くまでには、数ヶ月を要した。これは発声障害と呼ばれる、何らかの原因で声が出づらくなる病気のなかのひとつの症状である。発声障害には、山田氏を悩ませる過緊張性発声障害のほか、変声障害、心因性発声障害、攣性発声障害などがあり、症状は個々によっても異なる。メジャーな病気とは言えないうえに、個人差が激しく症状を普遍化できないため、患者は身近に辛さを共有できる人がいない孤独感を抱えやすい。
時系列は前後するが、山田氏がまだ発声障害とわからなかった時期、こんな経験をしたという。
「妻(当時の恋人)に『声が出しづらいんだ』と相談しても、『テレビで観ていて違和感はないけど』と言われてしまって、自分が気にしすぎなのだろうかと思うこともありました。今考えると、妻の反応はもっともだと思います。ただ、追い込まれていた私は、妻からの理解が得られないことによってさらに追い打ちをかけられたように感じてしまいました」
病名さえわからず暗中模索だった山田氏は、管理職のもとを訪れる。
「『声が出づらいので、辞めたいと思っています』と伝えると、上司は驚いていました。そして、『考え直してはどうか』と慰留してくれました。今でもそうですが、私はアナウンサーという仕事を“声によって事実を伝えていくプロフェッショナル”だと考えています。そのプロの現場に、声に不安を抱える自分がいることが許せませんでした。自らなりたくてなった職業であり、安易に考えて手放そうとしたのではありません。自分はアナウンサー失格で、もう辞めるしかないと本気で考えていました。当時の私は、冷静な判断ができないほど悩んでしまっていました」
数ヶ月悩んだのち「発声障害」と判明
退職する覚悟も、上司に慰留され…
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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