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32歳自閉症の息子を抱えるシングルマザーが「障害者手帳を取ったら人生負け」の考えを改めたワケ

 内部障害・内部疾患とは、外見からは分からない内臓の障害や疾患のことだ。その中のひとつに、故・安倍晋三首相も苦しんでいた「潰瘍性大腸炎」がある。潰瘍性大腸炎は寛解と再発を繰り返すが、原因ははっきり分かっていない。安倍氏もそうだったように、仕事に支障をきたす人もいる。
佐藤加根子

佐藤加根子さん(61歳)。子どもの頃から音楽に慣れ親しみ、バンド活動もこなすシングルマザー

 潰瘍性大腸炎は、指定難病のひとつで、大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患のことだ。この病気にかかると、下痢や血便が止まらず、腹痛に悩まされ、時には微熱を出し入退院を繰り返す。重症化すると大腸を摘出することになる。  厚生労働省の調べでは、患者数は平成25年度末の医療受給者証および登録者証交付件数の合計で16万6060人、人口10万人あたり100人程度に発症する。そんな潰瘍性大腸炎に長年苦しんできた、佐藤加根子さん(61歳・@FP73354110)に話を聞いた。  佐藤さんは、32歳の自閉症の息子をシングルマザーとして育てながら、「一般社団法人障害のある子のライフプランサポート協会」の代表として、障害がある子やその家族のために、ライフプランと資産管理をサポートする事業をしている。

高校2年生で生死の境をさまよう

 愛知県名古屋市に産まれ育った佐藤さん。「小中学生の頃は成績優秀で、東大も狙えると言われながらも、高校に入ってからは洋楽ロックにはまり、バンドの追っかけをするような女の子でした」と語る。異変がおとずれたのは、青春真っ盛りの高校2年生のときだった。 「下痢が酷くトイレから出られなくなりました。粘液のような便が出るようになり、大腸の潰瘍から出血するので貧血を起こし、立ち上がれなくなりました」  血の混ざった便が止まらず腹痛も酷かった佐藤さんを心配した両親は、日赤病院を受診させた。潰瘍性大腸炎と診断され、即入院が決まり、2週間ほど生死の境をさまよった。万が一、重症になると、大腸を摘出し、人工肛門で過ごすこともあるという。 「治療のためにステロイドホルモンをずっと飲んでいたんですが、副作用で顔がパンパンに腫れます。ムーンフェイスというのですが、身体はガリガリなのに顔だけまん丸になって、当時は若かったので、自分の容姿が嫌いで写真も撮りたくなかったです」

闘病でスッポリ抜け落ちた記憶

 思春期だった佐藤さんにとり、つらい闘病生活だった。 「1か月~2か月ほど入院生活を送りました。1か月くらいは丸々、何も食べられなかったです。点滴で栄養を取るのですが、腕の血管がもろくなってしまい、腕から針を入れられなくなりました。手が腫れあがり、最終的には、足から点滴の針を入れるようになりました」  寝たきり生活ですっかり筋力が落ち、トイレに行こうとすると立てなくなっていた。当時の佐藤さんの身長は158センチ、体重は40キロまで落ちた。経管栄養を取ると、見えるところに大きな傷ができてしまうので、それを避けて闘病を続けた。水さえ飲めない過酷な治療で、高校時代の記憶はスッポリ抜け落ちてしまっているという。 「このままだと留年だと言われたので、病院から学校に通学していました。進学校に通っていたため、大学は推薦で、もともと興味があった心理学部へと進学しました」
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「障害者手帳を取ったら人生負けと思っていた」
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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