仕事

パセラ“2代目”跡継ぎ娘、社長就任の知られざる舞台裏。カラオケ業界のコロナ苦境を乗り越えて

社員のアイデアから生まれた人気プラン。「推し活するならパセラ」の裏側とは

さらに、パセラの店舗で打ち出す企画は、社員の提案から生まれているという。 「社員自ら課題を見つけ、新たな取り組みを始めるボトムアップ型の組織風土が根付いている」と話す荻野さんは、社員のアイデアから誕生したプランを紹介した。 「好きなアイドルやアーティストの誕生日に無料でハニトーを提供する『勝手にバースデイプラン』という企画があったのですが、入社3年目の社員が、お客様自身の誕生日ではなく、“推し”を祝いたいという潜在的なニーズをとらえ、具現化したものになります。 現在は、誕生日以外にもグループ結成記念日や推しメンバーの卒業祝いなどにも対応できるように『勝手にお祝い会プラン』へと進化していますね」
アフタヌーンティー

ザ・レギャン・トーキョーが提供する「推しくまちゃん付きアフタヌーンティー」

そして、お気に入りのアイドルや俳優を応援する「推し活」と、アフタヌーンティーを楽しむ「ヌン活」を掛け合わせた「推しカラーアフタヌーンティー」は、系列店舗での試験的な試みから生まれた企画になっているとのこと。
メニュー

左から「季節のアフタヌーンティー(いちごとチョコ)」、「完熟チョコバナナハニトー Ver.2.0」(真ん中)、「推しカラードリンク」(右奥)

「渋谷にある『ザ・レギャン・トーキョー』で、ランチタイムの稼働率を上げるためにアフタヌーンティーを始めたところ、予約で埋まるようになったんです。 そこから、パセラでも横展開してみようと全店に導入していったわけですが、多様な推し活需要に応えるために、11種類の推しカラー(自分の推しをイメージする色)を配したアフタヌーンティーに仕立てました。 現在は推しコンテンツとして前面に打ち出しており、『推しカラードリンク』や『推しカラーハニトー』といった形で、メニューのラインナップを広げています」
推しカラーアフタヌーンティー

全11色から選べる「推しカラーアフタヌーンティー」

そのほか、一人の子連れ客にヒアリングしたのがきっかけで始めた「ママ会プラン」や、雨天による予約のキャンセルを防ぐために作った遊具付貸切キッズルーム「パセランド」なども、現場の社員がお客様目線に立って考えたものになっている。
パセランド秋葉原

パセランド秋葉原の写真

このようなパセラならではの強みがあるからこそ、消耗的な利用の流動客ではなく、パセラを目指して来店する目的利用客の獲得に成功し、「客単価が業界平均の2倍」や「顧客満足度業界No.1」を実現させているのだ。

父に直談判した社長のポジション。目指すは「親孝行」と「働き方改革」

荻野さんは2009年にNSグループへ入社し、新規事業の立ち上げや赤字店舗の立て直しを担い、2018年に人事責任者(CHO)へ昇格した。 その後、2023年4月に父から社長を引き継いで、まもなく1年を迎える。 父の背中を見て学んだことや、経営者として意識していることについて、荻野さんは次のように語る。 荻野佳奈子「父は、今でも現役バリバリで、おそらく生涯現役の、仕事に心血を注ぐプロ経営者だと思っています。そんななか、苦しい時期だったコロナが明けて、さらなる事業拡大のために人材採用や社内の制度改革などを進めていくにはちょうど良いタイミングだったこともあり、思い切って『もしよかったら、自分に社長をやらせてもらえませんか?』と父に直談判したんですよ。 そうしたら、特に否定されることなく、すんなりOKをいただけて。以来、社長兼CHOとして仕事に取り組んでいますが、特に気負うことなく『会社のためになることは何か』を常に心がけながら、今までと変わらずに社員と接しています」 今後の展望を聞くと、「パセラのさらなる進化」と「新規事業の成功」を掲げる。両方を成し遂げるために重要なのは「人の力」だと荻野さんは説明する。
マームガーデンリゾート葉山

日本最大の産後ケアホテル「マームガーデンリゾート葉山」

「省人化すべきところ、人の力で魅力を伝えるところを明確化し、『サービス業界に驚きと感動を与え、お客様に幸せと彩りを与える』というコアの部分にもう一度立ち返り、“人”がいることに価値を感じてもらえるようにしていきたいですね。 また、神奈川県葉山にある産後ケアホテルは、父の力を借りることなく、私自身が一から立ち上げた新規事業で、少しでも親孝行ができるようにしっかりと成長の軌道へ乗せていければと考えています」 パセラを運営するNSグループは、コロナ禍の厳しい3年間を取り戻すために、2023年から2025年までベースアップ(給与水準の引き上げ)を実施している。 「サービス業の世直し」を行うという志のもと、まずは従業員の働き方を改革し、満足度を高めていく狙いがあるという。パセラの未来を握る2代目社長の手腕に期待したい。 <取材・文・撮影(人物)/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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