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「バラエティ番組はくだらない」は至極真っ当な主張。小泉今日子が“国民の相棒”であり続ける理由

印象深い「小競り合い」シーン

小泉が演じるのは、テレビドラマのプロデューサー吉野千明。オフィス内の喫煙所にこもって何本も煙草を吹かして脚本の初稿を読むのが基本スタイル。実際、小泉にとっての煙草とは一種、図像学的なアトリビュート(持ち物)なのだが、この千明に「カッコいいです!」なんて素直にいったものなら、灰皿がとんできそうな勢いだ。部下たちも気を遣うのなんの。 『脱出』のバコールもまた煙草を持った痛烈な人。初登場場面からすごい。無愛想に部屋に入ってくるなり、ボガートにマッチを要求する。ボガートがヒョイと投げたマッチ箱をキャッチする一瞬のやり取りだけでふたりの深い関係が描かれる。ハワード・ホークス監督の慧眼的演出だ。 『最後から二番目の恋』の小泉の場合は、独り身の45歳プロデューサーが、そろそろ孤独が身にしみて鎌倉の古民家に引っ越すのが発端。お隣さんが、姉弟と娘と賑やかに暮らす長倉家の長男で、市役所職員の長倉和平(中井貴一)、50歳。5歳差のふたりが顔を合わせばすぐさま小競り合い。帰宅時間がだいたい一緒で、和平が改札でもたつく千明をヒョイと先に追い越すのが通例。負けじと追いついた千明が和平を追い抜く。 並んでるんだか、並んでないんだか、でも遠目には仲良しな背中のふたりがまた帰路で小競り合いを演じる。小泉の「ヘヘッ」と中井の「ヘッ」という笑い声が呼応するのも見事な相棒関係の通奏低音。

“国民の相棒”の平衡感覚を頼りに

第5話、長倉家の朝の食卓で千明が言う。「お兄さんの言ってることってすっごく真っ当だし、必要な言葉だと私は思いますけどね」。現実の小泉の発言がこうして過去の作品で演じたキャラクターの台詞によって裏書きされる。名言めかすことなく、自然に真っ当に。 さりげない日常が積まれる長倉家の食卓は、明日を生きるための金言に満ちている。今、このドラマを見返すと、「くだらない」発言が持つ言葉の響きにだけ敏感になることなく、その響きが射抜く意味そのものに傾聴することが必要だとわかる。右か左かの安直な判断はやめて、かつて生身のアイドル像「キョンキョン」を体現した現在の小泉今日子に理想的な平衡感覚を見出すことはできるはず。 右だとか左だとかどっちかわからなくなってにっちもさっちもいかなくなり、いやでも実はどちらでもよかったりするんだけどなとモヤモヤしたときは、迷わずに「くだらない」と吐き捨てる。そんな単純な勇気とそれからちょっと緩いくらいの怒りボタン。小泉今日子的平衡感覚を頼りに、今日も生きていくのが「真っ当」な生き方なのだと、我らが“国民の相棒”がいつでも教えてくれる。 <TEXT/加賀谷健>
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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