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「医療ドラマはなぜ多い?」納得の理由。天才外科医、歌舞伎町、山岳…今夏のドラマも豊作

『新宿野戦病院』は山本周五郎作品へのオマージュか?

新宿野戦病院

番組公式HPより

『新宿野戦病院』は日本一の歓楽街である東京・歌舞伎町のボロ病院が舞台。経営者一族の一員である美容皮膚科医・高峰享(仲野大賀)はこの病院を売却したい。医師もろくな人間がいなかった。そこへ現れるのが日系米国人医師のヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)。日本の医師免許はなく、治療もかなり雑だが、志は高い。  3日放送の第1回の患者は元ヤクザの高齢者に撃たれた外国人ら。男性は不法滞在だったものの、ヨーコは躊躇せずに銃弾の摘出手術を行う。自分に日本の医師免許がないこともまるで気に留めなかった。外国人を撃った高齢者も脳に血腫が出来ていたため、ヨーコが手術する。機材が揃ってなく、かなり荒っぽい手術だったが、なんとか成功させた。  脚本を書いているのはクドカンこと宮藤官九郎氏だ。この作品は弱者を救い続ける医師を描いた山本周五郎の小説『赤ひげ診療譚』(1958年)へのオマージュなのではないか。  クドカンは昨年、やはり山本作品である『季節のない街』をディズニー+でドラマ化した。今年4月にはテレビ東京でも放送された。  クドカンは誤解されることもあるものの、他人に冷淡な世の中に対し、異を唱え続けている。人情家である。このドラマもユーモアに満ちた社会派作品になりそう。第1回の視聴率は個人4.5%、コア2.9%と上々だった。

患者からの目線も注目の『マウンテンドクター』

マウンテンドクター

番組公式HPより

『マウンテンドクター』は山岳医療チーム「MMT」の物語。山で病気になったり、ケガを負ったりした患者を救う医師たちの姿が描かれる。第1回は8日に放送された。  主人公はMMTの一員である整形外科医・宮本歩(杉野遥亮)。本当は循環器内科医の江森岳人(大森南朋)が山岳医療のエキスパートなのだが、何かをやらかしてMMTを外された。理由が分かるのは第2回以降となる。  宮本は医師になるはずだった兄の翔(時任勇気)を山の事故で亡くしていた。それだけに当初は山岳医になることを躊躇していたが、考えをあらため、山で命を落とす人をなくそうと決意する。こういったサイドストーリーがつくりやすいのも医療ドラマの特長である。物語を患者目線、医師目線の2本立てに出来る。  第1回の患者は心臓の悪い宇田伸一(螢雪次朗)。山を愛していた亡き妻の慰霊のために登山がしたいが、江森が許さなかった。ところが、未熟な上に情にほだされやすい宮本が許可してしまう。結果、宇田は倒れた。これを機に宮本は山岳医療を本格的に学ぶ。  山岳医療ドラマは7月からの放送と相場は決まっている。向井理(42)が主演したTBS『サマーレスキュー〜天空の診療所〜』も2012年の夏ドラマだった。美しい夏山の景色もドラマの大きな魅力になるだからだ。  医療ドラマと同じように国内外で多いのが刑事ドラマ。実は理由は全く一緒である。犯人の立場やキャラクター、犯行手口を変えることにより、可能性が無限に広がるからだ。シリーズ化しやすいところも同じである。  これを筆者に教えてくれたのは『ふぞろいの林檎たち』(1983~97年)などを撮ったTBSの名匠・鴨下信一さん(故人)。目から鱗が落ちる思いだった。テレビを観ているだけだと、意外と分からない。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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