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統合失調症の姉を南京錠で監禁した両親。“家族という存在”を20年追い続けた監督の「真意」

ナレーションを自分で読んだ理由

どうすればよかったか?

映画『どうすればよかったか?』(C)2024動画工房ぞうしま

――本作のナレーションは監督自身が行っています。プロの方ではなく、なぜ自分でナレーションを読んだのでしょうか? 藤野:まず基本的に、これまで作ってきた作品にはナレーションが入っていませんし、音楽も使っていません。悲しい場面で音楽をつけたり、ナレーションで観客を誘導したりするのは、ドキュメンタリーとしてどうなのかなと感じているんです。本当はテロップもすべて省きたいのですが、映像だけでは説明しきれない部分もあるため、必要最低限のテロップを入れる形にしました。  ナレーションは、あらかじめ書いたものを読むとどうしても嘘っぽくなってしまうんです。そこで共同制作者でプロデューサーを務めている淺野由美子さんに私をインタビューしてもらう形式を採用しました。その中で、思い出しながら話した部分もありますし、「言葉が生まれてくる瞬間」や「言葉の強さ」、さらには話している感情の深さを少しでも感じてもらえたらという思いです。

字幕を出さなかった理由

どうすればよかったか?

映画『どうすればよかったか?』(C)2024動画工房ぞうしま

――編集におけるこだわりについてもう一つ伺いたいのですが、先ほど「テロップを入れない」とおっしゃっていましたが、字幕もほとんど付いていなかったと思います。ところどころ聞き取りづらい部分もありましたが、その判断をされた理由は? 藤野:プロの音声スタッフがガンマイクを使っているわけでもなく、カメラの内蔵マイクで録音しているので、音の解像度はあまり良くないです。1人で撮影していたので、あれ以上のクオリティを出すのは難しかったですね。ただ、今回の公開にあたって川上拓也さんというプロの音響技術者に整音をしていただいたので、山形で上映したときよりは改善されていると思います。  字幕を出さなかった理由ですが、字幕を出すと観客がどうしてもそれを読んでしまうんですよね。もちろん、言葉が理解できるに越したことはないのですが、映像の中には言葉以上に多くの情報が詰まっているんです。字幕を出すと、視線が画面の下に集中してしまい、映像そのものへの注目が減ってしまうという悩ましさがありました。とはいえ、冒頭では字幕を入れました。  ただ、姉が話している場面で字幕を付けても、観客には理解しづらいだろうと思います。主治医の方が「言葉のサラダ」と表現していたのですが、姉の話す言葉は関連性のない単語やフレーズが繋がっていて、文章として意味が通じないことが多かったんです。そのため、字幕を付けてもあまり効果的ではないと判断しました。
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帰省したら「ピザの箱が50箱も出てきた」
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平成生まれのライター、編集者。ファミマ、ワークマンマニア。「日刊SPA!」「bizSPA!フレッシュ」などの媒体で執筆しています

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【公開情報】
どうすればよかったか?』は、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、横浜シネマ・ジャック&ベティ、第七藝術劇場ほか、全国順次公開中
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