「ブスだから学歴をつけなさい」と言われて育った29歳女性が、相容れない両親と“和解”するまで
湯島駅からも上野広小路駅・上野御徒町からもアクセスがよく、さりとて目立たない、猥雑な裏通りの飲み屋街を進んだ場所に、『嗜好品天国』という店の看板は出ている。入口に貼られた貼り紙には「スタッフがよく遅刻する店です……。スミマセン」の文字。「スミマセン」と謝罪ベースではあるものの、ここはスタッフの遅刻が許されるお店として“その界隈”では有名なのだとか。どの界隈なのか。
「うちのスタッフは発達障害や精神障害を抱えている子が多く、朝きちんと起きられなかったり、決まった時間に出社することが苦手だったりするんです。一般社会で働きながら出勤しているスタッフもいますが、みんな何かしら社会生活に“しんどさ”を抱えていて、お客さんもそうしたことに理解を示してくれる方が多くてありがたいですね」
そう話すのは、店長である「人生無理だねひるねちゃん」こと板橋愛花氏(29歳)だ。「人生無理だね」を冠する板橋氏もご多分に漏れず、一般社会で生きるのに“しんどさ”を抱えていたという。
「私も大学3年生の頃、発達障害と双極性障害の診断を受けていて、現在も通院をしています。物心ついたときから、『人生、どうしてこんなにしんどいのだろう』という思いはありました」
板橋氏は、千葉県随一の進学校・渋谷教育学園幕張高等学校を経て、千葉大学薬学部へ進学した秀才だ。しかしその生育歴から、「自己肯定感が非常に低い」のだと話す。
「父は会社経営者、母は専業主婦という家庭で育ちました。家庭は裕福な方だったと思います。習い事や教科書などには惜しみなく資金を投入してくれる一方で、両親から少しでも“有害”とみなされたものは一切禁じられていました。“有害”なものの例として、ゲーム、バスケットボール、おやつなどがあります。全然合理性はないのですが、両親が何となく『安全ではない』と判断したものは即却下だったんです(笑)」
終始笑いを交えながらケラケラと軽やかに話す板橋氏だが、受けてきた傷は深い。
「しつけは厳しかったと思います。特に母親から叱られるときは布団叩きで叩かれてみみず腫れになったりもしました。父親から暴力を受けたことはないのですが、自分の考えと相容れないと極端な行動に出る人で、バイト先に勝手に電話をかけて私を辞めさせるように迫ったりされたこともあります。もちろん、そのバイトは辞めることになりました」
“しんどさ”を抱えるスタッフたち
裕福だが、しつけの厳しい家庭で育つ
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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