仕事

“時給1500円のバイト先”で見た地獄絵図「仕事ができない同僚」が走行中のトラックから…「怖くて後ろを振り返ることができなかった」

ようやく打ち解けてきた気がしたのだが…

とはいえ、あと6時間は一緒に働く仲間なので、ふたりの間を取り持てるよう、なんとなく世間話を振ってみた。「おふたりはどちらにお住まいなんですか? 僕は蒲田なんですけど」というと石崎さんは「俺は平和島、ボートレース好きでさ」と答えてくれた。老人は何故か無言だ。それを見て石崎さんが僕に耳打ちした。 「千馬君、こいつその辺に置いてってもいいんだけどどうするよ。いても戦力にならねえじゃん」 確かにいてもいなくてもそんなに変わらないが、確実に僕の業務が増えるため「いやいや、これから身体暖まっていい感じに動いてくれますよ」とフォローして、返事を濁した。 そのまま石崎さんとボートレース界の黒い噂について話し続けること30分。荷物を降ろす引っ越し先に到着して再び養生を始める。老人も怒られないように養生を手伝う素振りを見せていて、石崎さんも少し彼を見直したような表情を見せた。 「おい、お前名前は?」 「波多野です」 ようやく老人の名前がわかったところで荷物の運び入れがスタートした。引っ越し先は厄介なメゾネットタイプの集合住宅で、狭い階段をのぼる必要があった。ここで波多野さんが大事件を起こすことを僕らは予想できなかった。

冷蔵庫を運んでいる途中、死にかけるハメに

再び家具家電を僕と石崎さんで担当し、波多野さんに段ボール類をお願いする采配がとられた。波多野さんも少しスピードを上げる意識が出てきたようで、荷物に足を震わせながら頑張る姿に好感が持てた。これなら少し早めに業務が終わるかもしれないと僕も石崎さんも元気が出てきた。 ところが、僕らが階段の壁に冷蔵庫をぶつけないように運んでいると、上から大型の段ボールが落ちてきた。その段ボールは先頭をいく石崎さんにぶつかり、そのまま僕と冷蔵庫が階段を落下した。 「波多野てめえ何やってんだよぶっ殺すぞ!!!!」 本当に罪を犯しそうな声でそう叫ぶのを聞きながら、僕は冷蔵庫の下敷きになっていた。長袖のおかげで擦り傷程度のけがで済んだが、あわや死人が出る大惨事だ。そして当の波多野さんはというと、高みの見物でなぜかにやにやと僕らを眺めている。 「千馬君、今冷蔵庫どかすから待っててな。波多野、お前もうトラックで待ってていいから」 そうして石崎さんに冷蔵庫をどかしてもらい、僕らはふたりで午前の現場を終えた。幸い物件や荷物に破損はなく、僕らはクレームにならなかったことを安堵しながらトラックに乗り込み、午後の作業に向かった。
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「降りなきゃ殺す」と脅されるも抵抗し…
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小説家を夢見た結果、ライターになってしまった零細個人事業主。小説よりルポやエッセイが得意。年に数回誰かが壊滅的な不幸に見舞われる瞬間に遭遇し、自身も実家が全焼したり会社が倒産したりと災難多数。不幸を不幸のまま終わらせないために文章を書いています。X:@Nulls48807788
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