仕事

“時給1500円のバイト先”で見た地獄絵図「仕事ができない同僚」が走行中のトラックから…「怖くて後ろを振り返ることができなかった」

「降りなきゃ殺す」と脅されるも抵抗し…

「波多野、ミスはしょうがないけどお前やる気あるの?」 石崎さんがそう問いかけても波多野さんは何も言わず、ただ俯いていた。その様子をみた石崎さんの堪忍袋の緒が切れる音がトラックに響いた気がした。 「お前助手席のドア開けて今すぐ降りろ、降りなきゃ殺す」 石崎さんがそう言った場所は3車線が通る大きな道路の真ん中で、流石の波多野さんも小さな声で「路肩に停めてください」と要求した。だが石崎さんは「ここで今すぐ降りろ」と引き下がらない。 それでも降りようとしない波多野さんの顔面を握り、拳で数回殴った石崎さんは上体を寝かせつつ助手席を開け、そのまま器用に身体を反転させて波多野さんを蹴りだした。「千馬君、早く閉めろ」と僕に助手側のドアを閉めさせ、そのまま一気にアクセルを踏みこんだ。

怖くて後ろを振り返ることができなかった

波多野さんが蹴りだされた車線では乗用車が結構なスピードで走っていて、背後からは大きなクラクションが響いてきた。僕は怖くて後ろを振り返ることができなかったが、それと裏腹に石崎さんはスッキリしたようだ。 「あんなやついっぺん車に轢かれればいいんだよな!」と僕に笑いかけたあと「千馬君って競輪も見るの?」などと軽口を叩き始めた。ジキルとハイドが交互に入れ替わるさまを目の当たりにし、ただただ恐ろしかった。 もう一軒引っ越しをしてその日の業務を終え、事務所に戻った。「千馬君、また来てね♡」と石崎さんが手でハートマークを作っていたけれど、僕はそれを半ば無視して駅まで走った。 次に何か大失敗して道路に蹴りだされるのは、「僕なのかもしれない」と考えたら気が気じゃなかったのだ。結局、それ以来引っ越し屋での日雇いバイトには行っていない。
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“肉体労働をうまくやり過ごすコツ”を伝授
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小説家を夢見た結果、ライターになってしまった零細個人事業主。小説よりルポやエッセイが得意。年に数回誰かが壊滅的な不幸に見舞われる瞬間に遭遇し、自身も実家が全焼したり会社が倒産したりと災難多数。不幸を不幸のまま終わらせないために文章を書いています。X:@Nulls48807788
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