何もしないのが“正解”の官僚仕事【三橋貴明×飯田泰之】Vol.3
【短期集中連載】三橋貴明×飯田泰之対談 [日本は成長できる!]Vol.3
経済評論家で作家の三橋貴明氏とエコノミストの飯田泰之氏。具体的な政策提案に違いはあれど、共通するのは「脱デフレ以外の経済成長なし」、そして「日本は成長できる!」という点だ。日刊SPA!では、「短期集中連載」として三橋貴明氏と飯田泰之氏による過激な経済対談を5回にわたってお届けする。
⇒Vol.2『「○○だからデフレ」論を喝破する』
https://nikkan-spa.jp/289171 三橋: どうして、データや事実に基づいて議論しないんでしょうか。想像ですが、日銀は重い腰を上げて正しい政策を始めたら、「お前ら今まで何やってたんだ」と言われて、日銀不要論が巻き起こって、財務省と再統合になるのがイヤなんでしょうね。 飯田: インフレになって批判されるのが嫌なんです。……たぶん、インフレになったら日銀叩かれますよ。必ず、テレビが「モノが高くなって大変だ!」と報道するでしょうし。みんな、所得が伸びてデフレなのがいいんです。 三橋: それができたら、最高ですよね(笑)。 飯田: でも、それは完全に相反しているので、どこかでバランスをとらなくてはいけなくて、それが本来の仕事ではあるんですが……。あと、彼ら個人の立場からすると、能動的にやって成功してもいいことがひとつもないんですよ。逆に、何かちょっとでも問題がおきたら、自分の生活が危うくなる。前例にないことはしたくない。 三橋: 財務省も同じですよね。公共事業の場合、財務省の官僚が最終的に予算の配分を決めます。でも、どういう決定をしても、財務官僚は必ずは批判される立場になる。なぜなら、山ほどの陳情や政治家の要求の中から、予算を投じる事業を選ぶわけで、あぶれた人は必ず出ます。というわけで、財務官僚が公共事業をやりたくないというのはよくわかるんだけど、そういう個人的な感情で国家の経営をやってほしくない。仕事なんだから。日銀もそうですが、批判されるのも込みで官僚の仕事なのです。 飯田: 日本の官僚って、プラス査定ではなくマイナス査定だけで人生が決まっていくので、要は「何もしない」というのが“正解”になってしまう。何もしなければ、華々しい用意された天下り先にいける。逆に、何かをやってしまうと非常にヤバい。官僚は長時間労働のくせに給料は安い。都銀に就職した同期と比べると桁が違います。天下り込みで考えないと、人生の収支は合わないわけです。まあ、そんなこと思うならとっととカネの稼げる業界に行けばよかったのにと個人的には思うのですが(笑)。最初は青雲の志をもって官僚になっても、結婚、出産と人生の節目を迎えるたびに変わってしまうみたいですね。 三橋: 人間だから、変わるのは仕方がないんだけれど、だからやっぱり、天下り禁止云々に解決先を求めるよりも、政治家が「責任を取ります」と宣言をすべきですよね。政治家は責任を取れる。批判されたら辞めるとか、落選というかたちで責任を取らされることもある。しかし、官僚は何をどうやっても責任を取らない。ある意味、こちらはやられっぱなしになってしまう。 飯田: 政治家は責任を取れるけれど、意思決定はしない。意思決定をしているのが、責任を取らない官僚というのが今の状態です。意思決定の主体は最終的に責任を取る人がやらなくてはならないし、意思決定する人は責任を取らなくてはいけない。このふたつがセットなんだというのを、わからなせないといけないですよね。 三橋: 総理大臣が自らの経済政策を掲げ、1年後の結果を見て成果が出ていなければ「私を落選させてください」「すべて私が決めました。官僚の責任ではありません」と言えばいい。 飯田: まあ、あと、官僚サイドへの簡単なインセンティブ付けとして、名目成長率と公務員の給料を完全リンクさせるという手もありますよね。 三橋: それはアリだと思います。 飯田: あと、官僚というのは法に書かれてしまったら、そして、人事を握られたら、絶対に言うことを聞きます。小泉内閣がうまかったのは、人事を握ったのと、ごく一部だけれど、経済財政諮問会議が予算をもっていった。これだけで、圧倒的な影響力を持てる。後の政権は、小泉内閣の政策はともかく、その運営手法は徹底的にパクるべきだった。ところが、鳩山さんは、総理大臣就任時、必ず、幹部職員の辞表を各大臣が預かるという慣例すらやらなかったですし、人事異動の際、介入もしなかった。法律も作らなかった。 三橋: 民主党は国家戦略会議という、諮問会議のパクリみたいなのを作ろうとして、やらなかったですからね。結局、何もやらなかった。 飯田: 戦略会議が最初からしくじっていたのは、予算編成権がない。無意味なんですよ。会社でも同じでしょうが、ヒトもカネも動かせない会議って、ただの“ガス抜き”。ヒトとカネを握れば政治の影響力は出るし、逆に言うと、それができるのは政治だけなんですよね。 ⇒Vol.4『財政難だから消費増税。で、財政難になる!?』に続く
https://nikkan-spa.jp/289190 【飯田泰之】 いいだやすゆき●1975年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院博士課程単位取得中退。駒澤大学経済学部准教授。著書に『脱貧困の経済学』(共著・ちくま文庫)、『ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方』 (角川oneテーマ21) 『世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ! 』(エンターブレイン) 【三橋貴明】 みつはしたかあき●1969年、熊本県生まれ。1994年、東京都立大学経済学部卒業(現:首都大学東京)。2008年に中小企業診断士として独立し、現在は作家、経済評論家としても活動している。著書に『崩壊する世界 繁栄する日本』『マスゴミ崩壊』『4万2246票』『国民の教養』(以上、扶桑社)、『コレキヨの恋文』(小学館)、『悲観論に踊らされるな! ニッポン経済集中講義』(技術評論社) <構成/鈴木靖子>
https://nikkan-spa.jp/289171 三橋: どうして、データや事実に基づいて議論しないんでしょうか。想像ですが、日銀は重い腰を上げて正しい政策を始めたら、「お前ら今まで何やってたんだ」と言われて、日銀不要論が巻き起こって、財務省と再統合になるのがイヤなんでしょうね。 飯田: インフレになって批判されるのが嫌なんです。……たぶん、インフレになったら日銀叩かれますよ。必ず、テレビが「モノが高くなって大変だ!」と報道するでしょうし。みんな、所得が伸びてデフレなのがいいんです。 三橋: それができたら、最高ですよね(笑)。 飯田: でも、それは完全に相反しているので、どこかでバランスをとらなくてはいけなくて、それが本来の仕事ではあるんですが……。あと、彼ら個人の立場からすると、能動的にやって成功してもいいことがひとつもないんですよ。逆に、何かちょっとでも問題がおきたら、自分の生活が危うくなる。前例にないことはしたくない。 三橋: 財務省も同じですよね。公共事業の場合、財務省の官僚が最終的に予算の配分を決めます。でも、どういう決定をしても、財務官僚は必ずは批判される立場になる。なぜなら、山ほどの陳情や政治家の要求の中から、予算を投じる事業を選ぶわけで、あぶれた人は必ず出ます。というわけで、財務官僚が公共事業をやりたくないというのはよくわかるんだけど、そういう個人的な感情で国家の経営をやってほしくない。仕事なんだから。日銀もそうですが、批判されるのも込みで官僚の仕事なのです。 飯田: 日本の官僚って、プラス査定ではなくマイナス査定だけで人生が決まっていくので、要は「何もしない」というのが“正解”になってしまう。何もしなければ、華々しい用意された天下り先にいける。逆に、何かをやってしまうと非常にヤバい。官僚は長時間労働のくせに給料は安い。都銀に就職した同期と比べると桁が違います。天下り込みで考えないと、人生の収支は合わないわけです。まあ、そんなこと思うならとっととカネの稼げる業界に行けばよかったのにと個人的には思うのですが(笑)。最初は青雲の志をもって官僚になっても、結婚、出産と人生の節目を迎えるたびに変わってしまうみたいですね。 三橋: 人間だから、変わるのは仕方がないんだけれど、だからやっぱり、天下り禁止云々に解決先を求めるよりも、政治家が「責任を取ります」と宣言をすべきですよね。政治家は責任を取れる。批判されたら辞めるとか、落選というかたちで責任を取らされることもある。しかし、官僚は何をどうやっても責任を取らない。ある意味、こちらはやられっぱなしになってしまう。 飯田: 政治家は責任を取れるけれど、意思決定はしない。意思決定をしているのが、責任を取らない官僚というのが今の状態です。意思決定の主体は最終的に責任を取る人がやらなくてはならないし、意思決定する人は責任を取らなくてはいけない。このふたつがセットなんだというのを、わからなせないといけないですよね。 三橋: 総理大臣が自らの経済政策を掲げ、1年後の結果を見て成果が出ていなければ「私を落選させてください」「すべて私が決めました。官僚の責任ではありません」と言えばいい。 飯田: まあ、あと、官僚サイドへの簡単なインセンティブ付けとして、名目成長率と公務員の給料を完全リンクさせるという手もありますよね。 三橋: それはアリだと思います。 飯田: あと、官僚というのは法に書かれてしまったら、そして、人事を握られたら、絶対に言うことを聞きます。小泉内閣がうまかったのは、人事を握ったのと、ごく一部だけれど、経済財政諮問会議が予算をもっていった。これだけで、圧倒的な影響力を持てる。後の政権は、小泉内閣の政策はともかく、その運営手法は徹底的にパクるべきだった。ところが、鳩山さんは、総理大臣就任時、必ず、幹部職員の辞表を各大臣が預かるという慣例すらやらなかったですし、人事異動の際、介入もしなかった。法律も作らなかった。 三橋: 民主党は国家戦略会議という、諮問会議のパクリみたいなのを作ろうとして、やらなかったですからね。結局、何もやらなかった。 飯田: 戦略会議が最初からしくじっていたのは、予算編成権がない。無意味なんですよ。会社でも同じでしょうが、ヒトもカネも動かせない会議って、ただの“ガス抜き”。ヒトとカネを握れば政治の影響力は出るし、逆に言うと、それができるのは政治だけなんですよね。 ⇒Vol.4『財政難だから消費増税。で、財政難になる!?』に続く
https://nikkan-spa.jp/289190 【飯田泰之】 いいだやすゆき●1975年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院博士課程単位取得中退。駒澤大学経済学部准教授。著書に『脱貧困の経済学』(共著・ちくま文庫)、『ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方』 (角川oneテーマ21) 『世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ! 』(エンターブレイン) 【三橋貴明】 みつはしたかあき●1969年、熊本県生まれ。1994年、東京都立大学経済学部卒業(現:首都大学東京)。2008年に中小企業診断士として独立し、現在は作家、経済評論家としても活動している。著書に『崩壊する世界 繁栄する日本』『マスゴミ崩壊』『4万2246票』『国民の教養』(以上、扶桑社)、『コレキヨの恋文』(小学館)、『悲観論に踊らされるな! ニッポン経済集中講義』(技術評論社) <構成/鈴木靖子>
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