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【あわや大惨事】海外バンジージャンプの恐怖

― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、ゾゾ怖い」 ― バンジー 知り合いでニュージーランドに行ったのがいまして、バンジージャンプをやろうということになったらしいんですよね。で、観光案内所なんかで情報を仕入れて山奥の谷間に出かけて行ったわけです。ところが紹介された場所についてみると定休日らしくやってない。明日は予定が詰まっているし、明後日は帰らなくちゃなんない。やれないとなると、むしろやりたさが募ってきてしまい、やたら<バンジー! バンジー!>と通行人に聞き回っていますと<もうひとつ山を越した先にバンジーあるよ>と云われたそうで、とりあえず行ってみたわけです。  すると確かにベニヤ板に<地獄のバンジー。ちょっと先>と書いてあり、橋の真ん中にジャンプ台らしいのが設けてある。<あ! ここだ、ここだ! バンジーだ!>と喜んで下りたんですが、全く人影がない。で、ジャンプ台もあちこちが錆びていて大きな鳥籠を欄干に引っかけてあるような感じだったんです。三人いた仲間のひとりは<俺はノーバンジー!>と諦めたんですが、可愛いキウイガールとも知り合いになれなかった残りのふたりは、とにかく旅の想い出作りだ!と、係員を探しに辺りをふらふら歩いたんですよ。  すると古い雑巾を絞ったような爺さんがいたので<アーユーバンジー?><イエス! イエ~ス>と、よかったよかった! ようやく見つかったと、カネを渡し、バンジーの準備に取りかかったそうなんです。で、その爺さんは見かけよりもニコニコと愛想よくて、また手早くチャッチャとジャケットやらバンジーロープやらを取り出して装着してくれ〈揺れが止まるまで動いてはダメだ〉などと注意を述べたんだそうです。で、最初の奴の準備が済み、仲間が想い出作り用の記念写真だ!と少し離れたところからカメラを構え、ジャンプへのカウントダウンが高らかに谷間にこだましていると一台のランドクルーザーが猛烈なクラクションを鳴らしながらジャンプ台に突っ込んできたそうなんです。  もう本当にあと一メートルぐらいで衝突というところで停まると赤鬼のような大男が下りてきて雷のように怒鳴り散らし、ジャンプ台に居た仲間を道路に突き飛ばします。見ると爺さんの姿はなく、彼らはオロオロと知っている単語をあるったけ並べて説明すると相手もやっと落ち着き、赤鬼に喰われるところを免れたのですが、どうやら、あの爺さんの息子らしく実質は彼が仕切ってやっているのに今だ現役風を吹き回したい爺さんが邪魔をするのだというのです。で、今はバンジーのシーズンじゃないから駄目だと云われ、仲間の装備を外した赤鬼は彼らを手招きすると如何に爺さんが頭がボケているかを喚きつつ、バンジー用のロープをジャケットをつけたまま、ほいっと谷間に放りました。  あっという間にジャケットは水のない川原にドシャっと音を立てて着地。<な? このロープは長すぎるんだ。こんなのを用意するなんて駄目だ。これじゃバンジーじゃなく、スーサイドになっちまうだろ。何度、言っても忘れちまうんだ、ははは>。赤鬼は初めてカンラカンラと笑ったそうです。日本人はなすび色になりました。  というわけで想い出作りは急遽、バンジーではなくゴルフに変更した彼らでしたが、そこでも雷が近くの木を直撃し、暫く相手が何を言っているのか全然、わからなくなったそうです。おいらも昔、産まれて初めてゴルフクラブを握った日にバハマのゴルフコースに出て、隣のコースにOBしたら激怒した真っ黒なマフィアの人に囲まれたことがありましたね。それに懲りて次の番からオイラだけ手でボールを投げるという手投げゴルフをしたことは懐かしい想い出です。ほんと、ゴルフもどうかと思いますが、ゾゾ怖いですね。 平山夢明【平山夢明】 ひらやまゆめあき●’61年、神奈川県生まれ。’10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。前連載をまとめた『どうかと思うが、面白い』も、清野とおる画伯との特別対談やアメリカ旅行記付きで、小社より絶賛発売中! <イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>
どうかと思うが、面白い

人気作家の身辺で起きた、爆笑ご近所譚

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