中国の「一人っ子政策緩和」は失敗に終わる!?人民たちの反応は?
一人っ子政策がさらなる緩和に向けて動き出した。11月に行われた三中全会で、夫婦の一方が一人っ子の場合、第二子の出産を認める「単独二胎」の実施が表明されたのだ。
これまでにも、一人っ子同士の夫婦に第二子出産を認める緩和策が取られてきた。しかし今回の緩和により、第二子出産の権利を得る夫婦は一気に広がる。中国の’12年の出生者数1635万人だったが、今後は100万人程度の増加が見込まれている。
こうした動きに合わせ、さっそく便乗商売が活発化している。仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・49歳)は話す。
「街の漢方薬店では『さあ子づくりだ!』という幟が立てられ、精力増強や妊娠促進の薬を扱う棚が広くなった。また、『第二子こそは男児を』と願う夫婦をターゲットに、飲めば男の子が生まれるという怪しい薬も出回っています」
『南方都市報』(11月28日付)によると、ネット上では自称・医師や風水師による、「男女産み分けサービス」の宣伝書き込みが後を絶たず、詐欺被害も報告されているという。
ところが、同政策緩和に対する人民たちの反応は冷ややかだ。武漢市の運送業・武智義文さん(仮名・36歳)は話す。
「都市部では病院の分娩台を確保するのも、保育園に通わせるのにも袖の下が必要な状況。物価高から養育コストも増大し、庶民にとって第二子は贅沢品です。一方、金持ちは張芸謀(映画監督)のように、これまでも一人っ子政策を無視して複数の子供をつくっていた。結局、両者にとって今回の緩和策にはなんの意味もないのでは……」
反対の声はさらに意外なところからも上がっている。広州市の日系メーカー勤務・大倉翔平さん(仮名・39歳)の話。
「私の知人夫婦は一人っ子政策緩和の報を聞き、さっそく第二子をつくろうということになったんですが、それに猛反対したのは中学生になる長女。将来、遺産を半分持っていかれることになるからというのがその理由らしい」
広州市の日系工場に勤務する長田幸弘さん(仮名・32歳)も二人っ子の増加を危惧している。
「中国では子供の躾不足が問題視されていますが、一人でも躾けられない親に二人目はとうてい無理。わがままな子供がますます増えて、社会の混乱が加速する」
こうしたなか、トラブル孫悟空こと、ジャーナリストの周来友氏は、政策緩和の失敗を予見する。
「一人っ子政策の緩和を最も歓迎しているのは、養育コストも安く、労働力として男児が欲しい農民です。しかし農村部ではこれまでも女児の間引きが問題となっている。一人っ子政策緩和が浸透すれば男女比率がますます偏り、女児の人身売買や棄児も増えてくるでしょう。また、一人っ子政策違反の罰金は各地方政府が徴収するんですが、その総額は約3500億円以上に及ぶともいわれている。しかし、その収支は極めてグレーで、地方政府高官の不正蓄財の温床ともなっている。中央政府としてはそこを叩きたいという思惑もあるのでしょう。こうしたなか、一部の地方政府では逆に一人っ子政策違反の摘発強化に乗り出す動きも見られていて、中央との政策矛盾も起きています」
この国で生まれてくる子供たちには、受難が待ち受けている。
<取材・文/奥窪優木>
※写真はイメージです
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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