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春節に帰省しない中国人が急増「親戚にあげるお年玉の出費がハンパないから…」

 民族大移動と呼ばれる春節(旧正月)帰省ラッシュが今年も始まった。ところが、交通運輸部の試算によると、今年の春節前後40日間に国内移動する旅客の延べ人数は、29億1000万人に留まる見込みで、30億人の大台を割り込むこととなりそうだ。同期間の旅客の延べ人数は、’12年に初めて30億人を突破。’13年の34億人を頂点に、その後は減少傾向にある。
春節の名物「民族大移動」も過去のものになりつつある?

春節の名物「民族大移動」も過去のものになりつつある?

 広州市在住の日系工場勤務・戸田誠さん(仮名・47歳)も話す。 「ウチの工員たちも、今年は実家に帰らないという人が多い。中国版ツイッター『微信』には、地域別に『帰省しない人たちの集い』というコミュニティが登場し、活発に活動している。春節中にオフ会なんかもするようです」  春節に帰省する人が減っている最大の理由として指摘されているのが、旅費のコストだ。『新浪網』(10月26日付)によると、ネット上のアンケート調査で、回答者の8割が「1回の帰省で1か月分以上の収入を費やす」と答えた。  北京市在住の主婦・大西靖子さん(仮名・38歳)も、帰省コストの上昇ぶりについて証言する。 「夫の実家が内陸部の西安市郊外なんですが、ここ数年は春節に帰省するとお年玉の出費がハンパない。5年前まで、親戚の子供にあげる紅包(お年玉)といえば、20元札(約360円)と相場が決まっていたんですが、今や100元札(約1800円)じゃないと、露骨に落胆される。中国の田舎は親戚が多いので、20~30人くらいに配ることとなり、数万円が飛ぶことになる。ただでさえインフレで家計が年々厳しくなっているのに……」  景気が低迷するなか、庶民にとってこれは手痛い出費だろう。  一方、春節の帰省者数の減少を「東高西低の格差が縮まった結果」とするのは、中国人ジャーナリストの周来友氏だ。 「かつて春節の帰省は、都市に出稼ぎに来た農民工が故郷に錦を飾る機会だった。4~5年前なんかは、ユニクロの靴下を親戚にばら撒けば、ヒーローになれた。しかし、今や内陸部の生活水準も上がり、都会で売っているものはだいたいどこでも手に入るので、その程度ではたいして喜ばれない。そうした意味では、帰省する甲斐がなくなってきている」  さらに経済的な理由だけでなく、「親から結婚を迫られる」「混雑する時期に交通機関を利用したくない」などといったことも、都市生活者が春節の帰省をためらう要因となっていると周氏は指摘する。  こうしたなか、ネット上では、「恐帰族(帰省恐怖族)」という言葉も流行中だ。『梅州日報』(1月21日付)によると、アンケート調査で、4割以上が「自分は怖帰族」だと回答。中国在住のフリーライター・吉井透氏も、春節の過ごし方の多様化についてこう指摘する。 「中国では今、有給休暇の消化が推奨されていて、混み合う春節を避けて帰省する動きが広がっている。また、最近では、田舎の両親を出稼ぎ先に呼び寄せる人も増えている。Uターンラッシュとは逆移動になるので鉄道チケットも簡単に手に入りますからね」  かつては、「一晩以上立ちっぱなしの列車に揺られてでも、家族と年を越したい」というのが一般的な農民工の姿だったが、時代も変わりつつあるということか。 <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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