「吐いてでも給食を食べさせる」熱心な教育の恐ろしさ
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
じつに切ないニュースを見てしまいました。
岐阜市内の小学校の先生が給食を完食するよう児童に指導した結果、去年と今年7月までの間に、小学生5人が吐いていたというのです。
去年、1年生の学級担任だった時は4人に偏食をなくすために給食を残さず食べるように指導、4人が計8回、吐きました。
今年は、2年生の学級補助担任となり、7月に体調不良の児童に給食を食べるよう指導し、児童は吐きました。保護者は学校に児童の体調不良を連絡していましたが、この先生には伝わっていませんでした。
市の教育委員会は「配慮にかけた指導だった」として女性教師に口頭で厳重注意処分を出しました。
先生は「子どもに負担をかけてしまい反省している」と話しているそうです。
最初、僕はこのニュースを知って、「ああ、若い真面目な先生なんじゃないだろうか。この人は、自分が学生時代、先生の言ったことや校則に対して、まったく疑問に思わないで従ってきた人なんじゃないかな。だから、こんなムチャをしたんだな」と思いました。
ところがよくニュースを調べると50代の女性だと分かりました。
ということは、この先生は、この指導をずっと熱心にしてきたと考えられます。つまり、今まで、完食して吐いてしまった児童を見てきたはずです。でも、その指導をやめなかった。今回はたまたま匿名の情報が教育委員会に入り、問題になっただけなのです。
市の教育委員会は、この問題を受けて、「楽しく食べ物に感謝して食べる食育指導を職員に徹底する」とコメントしました。
けれど「楽しく」より「食べ物に感謝して」という部分を真面目に受け取れば「食べ物を残すことは食べ物に対して失礼です。全部、食べなさい」という指導にすぐにつながります。それが徹底されたら、吐いてもしょうがない、となるのです。

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