更新日:2018年02月14日 13:14
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21歳で賞金1000万円!ポーカー世界王者が明かす「プロポーカープレイヤー」とは?

World Poker Tour 日本の子供たちに「将来の夢は?」と聞けば、サッカー・野球選手、パイロット、宇宙飛行士といった答えが上位を占めるのは今も昔も変わらない。ところが、同様の質問をアメリカの子供たちに投げかけると、上記の職業のほかに「将来はプロポーカープレイヤーになりたい」という答えが少なくない。 「ポーカーは世界的に普及している対人ゲームの究極系。アメリカのポーカーの世界は、プレイヤーの数もファンの数も日本とは桁違いです。アメリカではハリウッドスターやテニスプレイヤーと同じくスターが存在して、それが生まれる土壌があります」  そう語るのは、昨年12月、韓国で開催されたポーカー世界大会「World Poker Tour」(以下WPT)のメインイベントで優勝。10万ドル(日本円で約1000万円)の賞金を獲得した横澤真人さん。21歳にして日本人として初めてとなるWPTのタイトルホルダーになったことで、日本のポーカー界は湧いた。そして驚くことに、今回のWPTが彼にとって世界初挑戦だったと同時に、大会参加前に“プロ宣言”をしていたことだった。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=615307 横澤真人さん「18歳のときに大学を中退。FXトレードのノウハウを基に立ち上げたWeb広告の会社を経営していましたが、あり余るポーカーへの情熱を抑えきれずに、ビジネスパートナーや共同経営者に『海外のカジノでポーカープレイヤーとして生活していきたい』と打ち明けました。『それだけの熱意を持てるものを持っているお前がうらやましい』って感じに後押ししてくれて、晴れてプロポーカープレイヤーとしてスタートを切りました」  立ち上げて3年目になる会社は軌道に乗り、利益率も順調に推移。それゆえ、世間一般の人からすれば、「社長業の座を投げ捨てて、ギャンブラーとして生計を立てるなんて正気の沙汰じゃない」と思うことだろう。しかし、彼には勝算があった。それは、ポーカーは会社経営、投資と同じく、適切な判断、リスク・リターンの選別を軸に戦う“スキルゲーム”というところだ。 「FXのトレーダーとして2年ほど利益を上げていた時期がありました。テクニカルトレードで月400phipsを抜いて、月利20%はコンスタントに出していたので成績は優秀だったと思います。無理やりポーカーにこじつけるつもりはないんですけど(笑)、『(チャートを見て)この辺まできたら、ロング(買い)のポジションを入れてるヤツは損切りしたがるだろう』って具合に、ラインでの攻防の読み合いにのめり込んでいましたね」  市場心理を読むこととテーブルでのプレイヤー心理を読むことは同義というわけだ。実際、初めてポーカーを覚えたのは、昨年春。友人に教えてもらい、4人程度の少人数(ポーカーは9人~10人程度で戦うのが普通)で遊び始める。ポーカーの基本戦略に「最初のレイズ額はブラインド(強制ベッドの額)の3倍」というものがあるが、「ブラインドディフェンスをされた時のコールオッズなどを考えながら、自分なりに最適額を見出すなど、誰に教わるわけでもなく、必要最低限のポーカーの常識みたいなものには辿り着いていたかもしれません」という横澤さん。仲間うちでは連戦連勝だったが、「思っていたより遥かに難しいゲームだと感じる出来事がありました」と続ける。 「ルールを覚えた頃にAJPC(全日本ポーカー選手権)という大会があるというので出てみたんですけど、もう今まで自分がプレイしていたポーカーとはまったく別のゲームで、意味もわからないうちに敗退しました。そこで思ったんです。これは、スキルを磨けば必ず勝てるゲームだと」 横澤真人さん 中学時代に始めたFPSというジャンルのオンラインゲームでは、練習に練習を重ねて全国ランク5位にまで上りつめたことがある。それが成功体験としてあったのか、ポーカーも練習すれば勝てるゲームと確信。AJPCで苦渋を舐めてからは、週7日のペースで各地の“アミューズメント”と呼ばれるポーカースポットに通い続け、自宅ではオンラインポーカーで研鑽を積む日々。毎日のように新しい発見があり、お店で出会った仲間とポーカー談義を繰り広げて試行錯誤を繰り返すうちに、半年足らずで実力は急上昇。そのうち、カジノのない日本を離れて、マカオやラスベガスでポーカーをして生計を立てる「プロポーカープレイヤー」という存在を知り、前述のプロ宣言へと繋がる。現在はマカオに拠点を移して、ポーカーを打ち続ける日々だ。 「マカオでの生活は、何時に起きて何時に飯を食うということはなく、すべて“テーブル単位”で時間が過ぎていきます。プレイしているテーブルのメンツが緩ければ、その相手がいる限り20時間でも30時間でもプレイします。現地で知り合った日本のプロ仲間と『今日は珠海で買い物でもしよう』ってときがたまの休日って感じです(笑)。ポーカーのゲーム観についても、マカオに来る前と後では認識がガラリと変わりました。専門的な話になりますけど、こちらでは、日本のアミューズメントやオンラインにはないディープスタック(テーブルに持ち込む金額が大きい)のキャッシュゲームがメインです。それまではリスクヘッジを考えながら保守的にプレイしていた局面でも、“リスクを考えるよりも、リターンを大きく”するようにプレイを変えました。結果的に1回1回の勝負では負けたとしても、トータルでプラスに持っていければっいいって考え方ですね」  ブラインド「50香港ドル(約650円)/100香港ドル(約1300円)」のレートの卓では安定した収支を維持。一か月トータルで、新卒サラリーマンの平均年収を稼ぎ出す月もあった。 「でも正直、僕にとってのポーカーは、低いレートで安定して稼ぐってことよりも、“上のレートでも通用する”腕前を早く身につけたいって気持ちのほうが強いです。尊敬する日本人プロの一人は、2000香港ドル/5000香港ドルという高レート卓(テーブルに5000万円近くを持ち込んでチップを取り合う)で打つこともあります。そのレベルに到達することが今の目標です」
横澤真人さん

一時帰国中の横澤さん。彼が「最もスキルを磨く場となった」という「東京DEポーカー」にて撮影。腕に光るのはWPTのブレスレットだ

 目指す地点は人知れず日銭を稼ぐだけのパチプロみたいな存在ではない。モチベーションの源は「ハイステークス・ポーカー」(有名プロが現金を奪い合う模様を映し出す、アメリカのテレビ番組)に出演するような、世界的に有名なプロプレイヤーの位置に到達すること。「スキルを磨き続けることで近付けるはず」と、まだ成人を過ぎたばかりの青年の瞳は希望と情熱に燃え滾っている。 「もちろん、ポーカーには運の要素も大きいです。だからこそ、技術レベルを高めること以上に重要な資質は、“ポーカーを飽きずに楽しみ続ける”ことだと思っています。確率2%のバッドビート(大きく勝っていたハンドが最後の1枚で逆転されること)で大金を失っても、『ま、こういうこともあるか』と笑ってられることですね (笑)」  記者も彼とは同卓したことがあるが、ゲーム中ひたすら喋り続け、笑ってプレイする姿はダニエル・ネグラーノ(カナダ出身の有名プロ。絶え間ないテーブルトークで場を盛り上げる)も顔負けだ。好きこそものの上手なれとはよくいうが、情熱を支えるのは“楽しみ続ける”ことに尽きるのかもしれない。  降ってわいたように生まれた頭脳ゲームの若き逸材。将来の活躍が楽しみである。 <取材・文/スギナミ>
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