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没後22年を経てなお支持される、漫画家・山田花子の生き様

自殺直前日記 改

「自殺直前日記改」(鉄人社)

 山田花子という漫画家をご存知だろうか。わずか24歳の若さで自ら命を絶った伝説の漫画家である。熱烈なファンの間ではいまだに語り、そして読み継がれている彼女だが、そんな彼女の遺した日記を元に編集した作品が「自殺直前日記改」(鉄人社)だ。様々な逸話が伝えられる山田花子の素顔はどのようなものだったのだろうか。「自殺直前日記改」の編集を務めた「Quick Japan」元編集長、赤田祐一氏に話を聞いた。

「山田花子と最初に出会ったのは東中野の薄暗い喫茶店でした。ベレー帽を被って、おしゃれな古着を着ていました。ただ、マンガやイラストの打合せのときはいつも下を向いていて、積極的に自分から話すタイプではありませんでしたが」

 対人交渉が苦手だったという山田花子だが、ヤングマガジンで「神の悪フザケ」を書き、メジャーな漫画誌にもその爪痕を遺している。その後はパチンコ雑誌などで原稿料を稼ぎながら、アンダーグラウンドなマンガ雑誌の金字塔ガロで自分の目指す作品を掲載している。ガロといえば特殊漫画家と呼ばれる根本敬など、異端の作家が集まる雑誌として知られている。そんなサブカル梁山泊にあって山田花子も女版根本敬の異名を取ることとなる。

「彼女も根本敬さんの作品が好きだったので、そう呼ばれることを喜んだと思います。ただ、イジメがマンガのテーマになっていて、絵が個性的なのでそのように呼ばれていましたが、作品は真っ当でしたよ。手を抜いているものは少ないし、日常をテーマにしているから、ある意味オーソドックスなマンガだと思いますね」

 自分の目から見た日常を描きたいという思いを抱いていた山田花子だが、マンガを描く以上、オチをつけないといけないということに対して、強いジレンマを感じていたという。

「『自分の書きたいのは日常だけど、日常にオチがあるのか?』という思いを持っていました。例えば、日記にも登場してきますが、「人間がばらばらになってしまう場面」を描きたい、と。でもそんなものをマンガに描いたらおかしいと思われる。だから「描きたいけれど描けない」と悩んでしまったんです。端から見れば考え過ぎですけど、だからこそ、こういう深みのあるマンガを描けた気もします」

 個性的な作品を生み出していた彼女だが、仕事が増えるにつれ、それを続けることは難しくなっていった。不器用が故にバイトをクビになり入院するなど、破綻した精神状態はエスカレートし、彼女の乗ったタナトスという名の船はゆっくりと死への航海へと漕ぎ出してしまったのである。だが、その根底には彼女の生真面目な性格があったと赤田氏は指摘する。

「彼女はすごいメモ魔だったんです。日常の出来事や会話の全てをメモに取る。コインランドリーの使用法の順番まで全部メモしていて、それが残されています。根本敬さんによれば、パーティとかでもコソコソと書いていたそうですね。しかもそのメモは推敲されていて第3工程ぐらいまであるんです。今回本を編集するにあたり、妹さんから日記の現物を見せていただきましたが、メモをノートに転記して第2工程でまとめて、第3工程で別のノートに清書していたことを知りました。メモはマンガやエッセイのねたになっていますね」

 日常で起きた些細なことをメモにまとめ、作品に落とし込むという彼女の性格は「自殺直前日記改」を読んでみるとよくわかる。彼女が亡くなり2年ほど経ったころ、父親の家を訪れた赤田氏はある本に出会うのだが、それは仏壇に捧げられた彼女の日記だった。

「それは自死したあとの彼女のメモをお父さんが自ら私家版としてまとめた本でした。非常によくできていました。お父さんは本職が編集者、文筆家ですからね。その本をまとめ直したのが初期の『自殺直前日記』なので、ある意味、彼女とお父さんとの共作みたいなところはあると思います。『自殺直前日記』の本当の編集者は山田花子のお父さんですね」

 父親の作った原本は完成度が高く、編集する際にも、赤田氏は構成を大幅に変えることはしなかったという。それだけに「自殺直前日記改」では彼女の生々しい息吹が感じられ、精神状態の変化がリアルに現れている。

「彼女が生きていたらどうなっていたか……想像できないですね。ただ、作品を見ると、おそらく投薬のせいでだと思うんですが、晩年は絵の内容とか、話の内容が変わっていたのがわかると思います。絵もカドが取れて、所謂イジメとかのモチーフではない、宮沢賢治の童話のような世界に変わっていきました」

 死後20年以上経っても、彼女はファンに支えられ続けている。命日が近づくと墓前にはお供え物が絶えず、様々なイベントなども開催される。また、作品の多くも絶版になっておらず世代を超えて支持を集めているのだ。山田花子は生きている。作品を通して、山田花子は生き続けているといってもいいだろう。彼女の作品は同じように心の闇を抱えている人の思いや、悩みの代弁者としてあり続けているのかもしれない。

「山田花子の日記もマンガも『劇薬』だと思います。『お薬』だけど『劇薬』。万人にオススメできる本ではないけれど、長く読み継がれていってほしい。いつの時代でも自意識との闘いに苦しむ人は一定数いますからね」

 人と関わることの苦しみや、社会と自分とのジレンマなどは普遍のテーマと言っていいだろう。そういった悩みがある限り、山田花子の伝説は終わらない。

<取材・文/長谷川大祐 構成/林バウツキ泰人>

自殺直前日記 改

伝説のベストセラーに、未発表部分を加え、完全復刻




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