スポーツ

【Fリーグ青年監督から見たW杯】フットサル出身者に見られる共通点とは?

須賀雄大

須賀雄大

 連日熱戦が繰り広げられているFIFAワールドカップブラジル大会。我らが日本代表は残念な結果に終わったが、大会が最もヒートアップするのはむしろこれからだ。決勝トーナメント1回戦までを消化し、前回王者スペインやイタリア、ポルトガルなど多くの強豪国がグループリーグで姿を消す中、大本命の開催国ブラジルは順当にベスト8へ進出した。64年振りの地元開催ということもあり、もはや優勝が義務付けられたような空気の中で戦う選手たちにかかるプレッシャーは計り知れないものがあるが、それでもネイマールやダヴィ・ルイスら主力がチームを牽引。02年日韓大会以来の優勝へ向け、歩みを進めている。

 そんなセレソン(ブラジル代表の愛称)のメンバーのうち、多くの選手がフットサル出身なのはご存知だろうか。ブラジルでは街中で小さな子供が大人に混じってストリートフットボールをするのが日常的な光景だが、同時に多くの子供たちが幼少期から地元のクラブチームでフットサルを始める。今大会のセレソン23人のうち、フットサルクラブに正式に登録していたことが分かった選手は10名(ネイマール、オスカル、ジョー、ウィリアン、ルイス・グスタヴォ、エンリケ、マルセロ、マクスウェル、ダヴィ・ルイス・ジュリオ・セーザル)で、おそらくこれ以外のほとんどの選手もフットサルからキャリアをスタートしていると考えられる。ブラジルのみならず、チリやコロンビア、メキシコなど多くの中南米の選手や一部の欧州の選手たちにとってこれはごく自然なことで、狭いコートでボールにたくさん触れながら技術や駆け引きの基本を磨いていくのだ。

 では、そうしたフットサルで磨いた技術はサッカーの試合のどういった場面で活かされているのだろうか。フットサルの全国リーグであるFリーグに今季から新規参入する、フウガドールすみだの須賀雄大監督に話を伺った。

◆ゴール前でのアイディアが豊富

須賀監督(以下:須賀)「サッカーとフットサルの一番の違いはゴールが近いことです。両チームのゴールが100m以上も離れているサッカーと違い、フットサルは40mしか離れていません。必然的にゴール前での攻防が増えます。だからフットサル出身の選手たちはゴール前でのアイディアが豊富で、色んな選択肢を持っているなと感じますね」

 開幕戦でブラジルの3点目となったオスカルのゴールなどはまさにその典型だ。トゥキックで相手GKのタイミングを外して打ったシュートだったが、オスカル自身も試合後に“ロマーリオスタイルさ。フットサルで学んだものだよ”とコメントしている。

須賀「ゴールに向かってドリブルしている場面で、日本人は目の前にいるDFと駆け引きをしてるけど、オスカルのプレーを見ても分かるように、ブラジル人はその先を常に見てますよね。GKがどういうポジションを取っていて、GKにとって嫌なプレーは何か。ゴールが狭い(横3m×縦2m)フットサルではサッカーのようにコースを狙ってシュートを打っても防がれてしまう可能性が高いんです。いかにGKのタイミングを外すか、またはGKを抜くかを自然と考えるようになる。トゥキック以外でいうと、GKの上を浮き球で狙うループシュートとかもそうですね。昔からの日本のサッカーの感覚だと、外してしまえば“軽い”と言われたりするようなプレーだと思うんです。でも、フットサルではゴール前でボールを受けた時点でGKに大半のコースを消されてしまっている場面も多いですから、そういう状況では肩口をループで抜くっていうのは、フットサル出身の選手にとっては普通のことなんです」

 ゴール前でのプレー機会が多いフットサルで豊富なアイディアを得られるというのは、何もオフェンス面だけに限った話ではない。ディフェンスにおいても同様だ。

須賀「日本では“(ボールを持った相手に)飛び込むな”っていうけど、それでずるずる下がってしまったら、相手のシュートの精度が高ければそのDFは居ないのと同じ。相手のミスを待っているような守り方なんですよね。フットサルではゴールが近いのでそういう守り方をしたらすぐに失点してしまうんです。例え不利な状況になったとしてもどこまで我慢してどこでボールに強く寄せるのか。どのタイミングでパスを出させて味方に狙わせるのか。サッカーで一番面白いのはゴール前での攻防だと思うのですが、今回のブラジル代表を見ていてもそこでのせめぎ合いのレベルが攻守ともにすごく高いなと。ああいったゴール前での質の高いプレーというのは、間違いなくフットサルで学んだものだと思いますね」

◆フットサル出身者の多くに見られる、個々のディフェンス能力の高さ

須賀「今大会を見ていて一番感じるのは、ポジションに関係なく個々のディフェンスのレベルがすごく高いなということです。日本人はオフェンスはオフェンス、ディフェンスはディフェンスという野球的な考え方をしがちですよね。失点すると後ろのせいで。“ディフェンスラインが崩壊した”っていうけど、ディフェンスラインだけで守っているわけじゃないはずなんです。例え最終ラインに侵入されたとしても、そこに至るまでに相手にどういう影響を、いかにストレスを与えられたかが重要なんじゃないかと。相手が気持ちよく自分たちの形、自分たちのタイミングで繋いでから上げるクロスには、中の選手も当然合わせやすいはずですけど、その前の段階で前線や中盤の選手がボールホルダーに厳しく寄せることでサイドへ展開するパスが50cmでもズレれば、その後のクロスの精度も少し落ちるはずですよね。ブラジル以外で見ていてそれを感じたチームが、チリとメキシコでした。彼らは平均身長は相手に圧倒的に劣るのに、それでもなぜ競り勝てるのかと言えば、クロスを上げられる前の段階から相手に厳しいプレッシャーをかけているからだと思うんです。最終ラインの選手が単純にヘディングで競り勝てるかじゃなくて、競り勝つ確率を上げるための作業を全員がしているなと感じました。0-0の試合はスペクタクルじゃないっていう人もいますけど、そういうハイレベルな攻防の末の0-0は面白いなって思いますよ」

◆育成年代でのフットサル

須賀「私はフウガドールすみだのトップチームだけでなく育成年代のチームの指導も行っているんですけど、前述した個々の守備の意識はフットサルで身に付くと断言できます。人数が少ないので、一人でもディフェンスができない選手がいると即失点に繋がるからです。それならサッカーのミニゲームでも良いじゃないかという人もいるんですけど、真剣勝負であるかどうかが大事だと思うんです。ミニゲームで負けて泣く子はいない。でもフットサルで大会に出て負ければ泣きますよね。悔しい思いをして“次は勝ちたい”となれば改善するしかないわけじゃないですか。“あの時自分が頑張ってもう一歩寄せてればあのパスを出されなかったかもしれない”って感じたりとか。そうやって自分で考えながら気付いていく。ブラジル人とかは小さい頃からフットサルでそういう悔しい思いをずっとしてきてるはずなんです。サッカーでもフットサルでも『個の強さ』は当然重要だと思うんですけど、ボールへもう一歩寄せることで次の相手のプレーにネガティブな影響を与えるのも個だと思いますね。ブラジルをはじめとするフットサル出身のサッカー選手は、冒頭で話した攻守両面でのゴール前のアイディアの豊富さに加えて、1対1での個の強さというのもフットサルで磨いていったのではないかと思います」

 先月13日に開幕したFIFAワールドカップブラジル大会もいよいよ残り8試合。本日(日本時間では明日5日)に行なわれる準々決勝からはいよいよ終盤戦に突入していく。ブラジル代表の試合を見る際には、こういった点にも注目しながら観戦すると、“個の強さ”という言葉の本当の意味を理解できるのではないだろうか。そうした視点が、試合をより深く読み解く鍵になることは間違いない。

【須賀雄大】
すがたけひろ。’82年生まれ。暁星高校サッカー部を引退後、フットサルに転向。’05年、フウガドールの前身である「BOTSWANA」の監督に就任し、’09年には全日本フットサル選手権(プーマカップ)でFリーグの強豪を下し、優勝に導く。そして、昨年チームをFリーグ昇格へと導いた。

【フウガドールすみだ】
東京都墨田区に拠点を置くフットサルクラブ。日本フットサルリーグ(Fリーグ)に今季2014-2015シーズンから参入。’01年のチーム発足メンバーの一人でもある青年監督、須賀雄大がチームを率いている。7/19(土)に墨田区総合体育館で行なわれるバサジィ大分との第5節がホーム開幕戦となる。地域密着型として注目を集めるフウガのホーム初陣に多くの観客が詰めかけることは間違いない。チケットの入手はお早めに。
オフィシャルHP(http://www.fuga-futsal.com

<取材・文/福田 悠>




おすすめ記事