プロレスはWWEと新日本プロレスのダブル・グローバリゼーション時代へ――フミ斎藤のプロレス講座・第23回
―[フミ斎藤のプロレス講座]―
プロレスはメディア・スポーツである。メディアとはいうまでもなくテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットなどメディアとカテゴライズできるすべてのもので、メディア・スポーツとは、メディアとスポーツが合体した“最強タッグ”を指す。スポーツとメディアはおたがいにとって最高のパートナーで、なかでもテレビとスポーツは“ベーコンとエッグの関係”といわれている。
アメリカだったらMLB、NFL、NBA、NHLの4大プロスポーツ、日本ではプロ野球、サッカー、大相撲などがいわゆるメディア・スポーツで、プロ・アマに関係なくイベントそのものがメディア化しているという点では4年にいちどのオリンピックやサッカーのFIFAワールドカップ、世界陸上、体操やテニスやバトミントンなどの世界大会も巨大なメディア・スポーツと位置づけることができる。
“やるスポーツ”ではなくて“観るスポーツ”であるプロレスは、メディア・スポーツのなかでもとくにメディアとの関係性が深い。基本的にプロレスとは“プロレスの映像”であり、そこにある情報、ストーリー、コトバ、イメージはつねにメディアによってわたしたち(消費者、オーディエンス、ネットユーザー)に伝えられる。WWEのプロレス――スポーツ・エンターテインメント――は、アメリカ国内だけで毎週、約1400万世帯がテレビ番組“ロウ”“スマックダウン”を視聴しているほか、パッケージ化された映像が35カ国語以上の言語に翻訳され、世界じゅうの200を超える国と地域に住むWWEユニバースのもとに届けられている。
そんなWWEがどうやら日本だけを“特別”なマーケットというふうにとらえている。某日、WWE Japan Videos運営スタッフから「サービス休止のお知らせ」なるメールが来た。「突然ではありますが2015年1月22日をもちまして、当WWE Japan Videosはサービスを休止させていただくことになりました」という文面からはじまるメッセージは、WWE公式ウェブサイト(日本語版)におけるビデオ配信サービスの休止の通知だった。「今後のサービスの再開時期については未定です」だという。ずいぶん急な“ご報告”である。メッセージのいちばん最後には「これまでサービスをご利用いただいたみなさまには、深くお詫び申し上げますとともに、これまでのご利用について、心より御礼申し上げます」という謝罪文も載っていた。
それから3時間後、こんどは「WWE Japan PRESS RELEASE 2015年WWE PPV年間スケジュール決定!!」という件名でWWE Japan PR担当から別のメールが送られてきた。メッセージの1行めには太字で「ついに日本でもペイ・パー・ビュー(PPV)ライブ配信開始!!2015年WWE PPV年間パッケージも販売決定!!」と記されていた。
「2015年は新たにニコニコ動画で一部大会のライブ配信(字幕なし英語版)が決定いたしました。これによりアメリカをはじめとする全世界のWWEユニバースと同じ時間にPPVを視聴することが可能となりました」
わかりやすく整理すると、WWE公式サイト上のビデオ配信サービスは1月22日をもって休止となり、1月25日(日本時間26日)に開催されるPPV“ロイヤルランブル”からニコニコ動画が現地からの生中継映像のライブ配信を開始。日本国内でのPPVイベントの視聴環境は(1)テレビでの視聴(2)パソコンでの視聴(3)パソコン/スマートフォン/タブレットでの視聴という3つのプラットフォームに振り分けられた。
(1)テレビでの視聴にはBS/CSアンテナ経由(スカパー!、スカパー!プレミアムサービス)、CATV経由(J:COMオンデマンド、iTSCOMオンデマンド)、光回線経由(スカパー!プレミアムサービス光、au光)、ブラビアからインターネット経由(DMM.TV)の4つの視聴方法があり、放映スケジュールはいずれも“英語版”が現地初回放送から2日後から4日後、“日本語字幕版”は現地初回放送から10日後で、生中継バージョンの放映はなし(料金は各イベントとも2000円、“レッスルマニア”のみ3000円)。
(2)パソコンでの視聴(スカパー!オンデマンド、DMM.com)は、スカパー!オンデマンドが現地初回放送から10日後に“日本語字幕版”を配信(生中継バージョンの放映はなし)。DMM.comは現地での初回放送から4日後の金曜午前に“英語版”を、現地初回放送から10日後に“日本語字幕版”をそれぞれ配信する(料金は各イベントとも2000円、“レッスルマニア”のみ3000円)。
(3)パソコン/スマートフォン/タブレットでの視聴ではニコニコ動画が現地初回放送と同時に“英語版”をライブ配信(アメリカの初回放送は日曜夜=日本時間は月曜午前)し、“日本語字幕版”は現地初回放送から10日後に配信される(料金は各イベントとも2000円、“レッスルマニア”のみ3000円)。現時点では、ニコニコ動画のライブ配信だけが日本国内でWWEのPPVイベントを生中継バージョンで視聴できるただひとつの方法ということになる。WWEのことしのPPV12大会の日程と日本国内での放映(配信)予定は以下のとおりだ。
日時 イベント名 ニコ生配信 VOD スカパー!/VOD
1月25日 ロイヤルランブル 1/26 1/28 2/5
2月22日 ファストレーン 2/23 2/25 3/5
3月29日 レッスルマニア31 3/30 4/1 4/9
4月26日 エクストリーム・ルールズ 未定 4/29 5/7
5月17日 ペイバック 未定 5/20 5/28
6月14日 マネー・イン・ザ・バンク 未定 6/17 6/25
7月19日 バトルグラウンド 未定 7/22 7/30
8月23日 サマースラム 未定 8/26 9/3
9月20日 ナイト・オブ・チャンピオンズ 未定 9/23 10/1
10月25日 ヘル・イン・ア・セル 未定 10/28 11/5
11月22日 サバイバー・シリーズ 未定 11/25 12/3
12月13日 TLC 未定 12/16 12/24
WWEが昨年2月に“開局”したWWEネットワークはすでに世界170カ国で動画配信サービスを開始しているが、日本におけるサービス開始の時期についてはいまだに未定のままだ。“英語圏”と“非英語圏”での事業計画のちがいといってしまえばそれまでのことなのかもしれないが、やはり日本市場においてはコンテンツの“日本語化”“日本語字幕”への変換は避けては通れないやっかいなテーマということになるのだろう。
これとはまったく正反対のケースとして現在、新日本プロレスが世界戦略の一環として取り組んでいるのがNJPW(New Japan Pro-Wrestling)の“英語化”である。パソンン/スマートフォン/タブレットから視聴できる動画配信サービスとして昨年12月に“開局”した新日本プロレスワールドNJPW WORLDは、すでにアメリカとヨーロッパをはじめとする“英語圏”のマニア層のアンテナを直撃していて、アメリカ国内ではiPPV、AXS TV(オンデマンド)といったサービスプロバイダーを利用した“英語版”NJPWのテレビ放映、動画配信がスタートしている。
ことしの1・4“WR9”東京ドーム大会のアメリカ市場向けの英語版実況・解説には元WWEアナウンサーのJRことジム・ロスとマット・ストライカーが起用された。WWEは世界じゅうのWWEファンをWWEユニバースと呼んでいるが、全世界=ユニバースにはWWEではないプロレスを観たがっているプロレスファンもたくさんいて、NJPWの“英語版”は世界レベルでWWEのオルタナティブとなりつつある。
メディア・スポーツとしてのプロレスは、どうやらWWEと新日本プロレスのダブル・グローバリゼーションの時代に入った。WWEのグローバリゼーションはもちろんアメリカ型グローバリゼーションで、新日本プロレスのグローバリゼーションはやっぱり日本型グローバリゼーション。WWEが日本をアジアのマーケットの拠点とするためにはコンテンツの“日本語化”は必須で、これと同じように、新日本プロレスが世界戦略を現実化していくためにはコンテンツの“英語化”が求められる。
ひょっとしたら、WWEネットワークと新日本プロレスワールドNJPW WORLDが“連立政権”を組めばほんとうの意味でのグローバリゼーションがあっというまに実現するかもしれない。もちろん、WWE――というよりもビンス・マクマホン――はWWEではないプロレス団体、プロモーターの存在は認めないし、それがどこの国のどんな組織、人物であってもいかなるネゴシエーションもしない。じつはWWEがいまいちばん関心を示しているのは棚橋弘至、中邑真輔、オカダ・カズチカという3人のNJPWスーパースターなのだという。
文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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