生観戦で気づいた馬術の本当の楽しみ方とは?
~フモフモ編集長の今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪 第5回~
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しばし「棒」を眺める物見遊山一行。世界選手権とかではないので、障害物の高さも低いのでしょうが、基本的にどの馬もポンポンと跳んでいきます。棒を落とす回数は1回とか2回とかがせいぜいで、まったく落とさない馬も多数。結果的に、やたらと同点の選手が登場することになってしまいました。
ルール的には、落とした回数による減点で決着をつけるわけですが、誰も落とさなかった場合、“その決め方”で本当に大丈夫なのでしょうか。ちょっと見ただけで同点者が続出する状況は、誰が1位で誰が2位なんだか、この先どのように決着をつけるつもりなのかすごく不安です。「同点の場合はタイムが速いほうが勝ちですよね?」と競馬的な観点で言葉が出掛かりますが、どうやら馬術では本当にタイムとかは二の次である模様なのです。
「木かぁ」という率直な驚き。赤外線のセンサーで通過タイムを計測とか、秒間2000枚の写真を撮影して順位を判定とか、細かくねちっこくタイムやら順位やらフライングの有無やらをチェックしようという気は馬術にはサラサラない模様。タイムはあくまでも「遅すぎたら減点ね」という目安程度で、基本的に気にしてなどいなかったのです。その辺りは、陸上とか競泳と同じイメージで見てはいけないのでしょう。
さらに驚いたのは、係員のいるボックスを覗きこんだときのこと。係員の女子がそこでタイムなどを計測し、場内にアナウンスしていたのですが、その手に握られていたのはストップウォッチ。係員女子は左右の手で巧みに数台のストップウォッチを操作し、そのタイムを発表していくではありませんか。
スマホの時計アプリでやってないぶんだけマシなのかもしれませんが、「手で押すヤツ」で大丈夫なのでしょうか。「それ、押し具合次第で結構変わるのでは…?」という僕の疑問は馬術界にとっては馬事東風なのでしょう。だって、タイムとかそんなに気にしてないから。馬術はそういうことじゃないのです。
◆馬術競技の本質に気づく
じゃあ、一体何をもって馬術は競い合っているのか。競技を眺めるうちに、同じスコアであっても内容には大きな差があることが徐々にわかってきました。棒さえ落とさなければ点差は生まれませんが、ヨッコラセと跳んだのと、ポーンと華麗に跳んだのでは見た目の美しさがまるで違います。
そして、馬と騎手の一体感というか、両者がともに「行くぞ」となっているのと、体勢にバラつきがあるのとでは、見た目がまるで違います。見た目がよいものは「ベルサイユのバラ」の一場面か何かのように人馬が華麗に飛越していきます。一方、見た目が悪いものは、やはり棒を落としたりすることも多く、同じ「跳んだ」でも質には違いがあるようです。もっと高い障害物が出てきたり、よりプレッシャーがかかる状況になったなら、さらにその差は顕著になるのでしょう。
体操競技では「美しい体操」という言葉があるように、単に技を決めればいいというものではありません。体操やフィギュアスケートでは点数に盛り込む「美しさ」を、馬術では点数に盛り込んでいないというだけのことなのではないか。フィギュアスケートっぽい仕組みであったり、点差のつきにくい順位づけの方法だったりを見ていくうちに、スコアに載らない「美しさ」を見なければ意味がないのだと感じ始めます。
それは、むしろ現場にいたほうがよく見える部分かもしれません。テレビだと細かい部分はよく見えるものの、全体は逆に見えづらくなる傾向があります。画面に映っていないところは見えませんから。跳ぶ高さであったり、幅であったり、姿勢であったり、毛ヅヤや服装まで含めて全体を見るには、むしろ現地で肉眼のほうがよく見える。そういう意味で馬術は、テレビより現場で見たほうが断然いい競技。漂う獣臭さも含めて、自分の五感で感じたい競技のように思われました。
⇒『穴場競技として馬術をプッシュするワケ』に続く
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