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スポーツ好きなら避けては通れないオリンピック競技「近代五種」とは?

~今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪 第49回~

 フモフモ編集長と申します。僕は普段、スポーツ観戦記をつづった「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」というブログを運営しているスポーツ好きブロガーです。2012年のロンドン五輪の際には『自由すぎるオリンピック観戦術』なる著書を刊行するなど、知っている人は知っている(※知らない人は知らない)存在です。今回は日刊SPA!にお邪魔しまして、新たなスポーツ観戦の旅に出ることにしました。


知っているようで知らない「近代五種」


 五輪における最大の謎、ベールに包まれた競技「近代五種」。近代五輪の祖であるクーベルタン男爵が、古代五輪における五種競技をイメージして生み出したとされるこの競技は、ひとつひとつの要素は見えているものの、全体としてはまったくもってよくわかりません。

 一応、近年の五輪ではインターネットなどを通じて中継されてはいるものの、ご覧になる方というのも多くはないでしょう。ましてや、実際の競技の観戦となればなおのこと。中学や高校で「近代五種部」があるというパターンもまずないでしょうし、「見る」「やる」の両面において一般社会とは切り離された位置にある。それが近代五種です。

 当連載が始まってからも、いつかは行かねばならないと思っていたわけですが、とにかくこの競技は大会の開催自体が少なく、なかなかチャンスを得られずにいました。

 近代五種協会のサイトを見ても、お知らせされる大会情報は基本的に外国でやる試合で、たまに国内でやるものは「近代3種」という手軽さや普及の面を意識した別の立てつけのものが多い。いつどこで本物の近代五種をやっているのかすらよくわかりません。

 今回は、その謎の奥を垣間見る貴重な機会を得ました。東京五輪の会場のひとつでもある陸上自衛隊の朝霞駐屯地にて、近代五種の大会が行なわれるという情報をキャッチしたのです。もちろん観戦のご案内やらチケットぴあでの入場券販売などあろうはずもありません。向こうからカーテンを開けるつもりは基本的にないのです。

やってきました陸上自衛隊朝霞駐屯地

 しかし、いきなり謎ベールが物見遊山の前に立ちはだかります。駐屯地入口の看板のほうにカメラを向けると、警備の人から制止されたのです。なるほど、軍事施設みたいなものですから都合が悪いのでしょう。さらには「ここで近代五種の大会があると聞いてきたのだが…」と切り出すも、身元不詳の不審者を見る目で、衛士の警戒は緩むことがありません。

 大会の運営サイドに取り次いでもらうまでの待機時間には、

「今日は別にいいけど、五輪本番ではどうするんやろな…」

「急に走ったりしたら一発撃たれそう」

「そのぶんテロとかの危険性は低いのだろうが…」

 などという不透明な未来への思いもよぎります。穴場観戦歴のなかでも、もっとも入りづらい穴でした。

(※競技会場まで関係者によって護送)

 近代五種というのはもともとはその名のとおり、5種類の競技を行なって競うものです。その5種とは馬術、水泳、フェンシング、ランニング、射撃。走って泳いで剣で戦って銃を撃って馬に乗る……軍隊の訓練さながらの過酷な競技を一日でやるというのですから大変です。

 ただ、現在では五種とは言いつつ、射撃とランニングは「コンバインド」というミックス競技になっており、冬季五輪のバイアスロンのように走って射撃してを交互に繰り返す1種目になっています。「じゃ、近代四種じゃないかな…」などと言ってはいけません。古代五輪における五種競技をモチーフにしている以上、クチが裂けても四種とは言えないのです。

 競技の進行順としては、まず水泳・フェンシング・馬術を行ない、最後のコンバインドに臨むという流れになります。水泳は200メートル自由形の一本勝負。フェンシングはエペでの総当たり、馬術は障害飛越競技となります。それぞれタイムがよかったり、相手に勝ったり、障害を上手く飛越することで高ポイントが得られます。

 そして最後のコンバインドでは10メートルの距離にある的をレーザーピストルで撃つ射撃と、800メートル走を1セットとして、それを合計4回繰り返します。スタート時に、これまでの成績をタイム差に換算して時差スタートとするので、コンバインドでゴールした順番がそのまま総合順位となる仕組みです。「じゃ、近代予選三種&決勝二種(実質一種)じゃないかな…」などと言ってはいけません。どれが不得意でも勝てない総合力を競うために、5種目を用意しているのですから。

 この大会は名前こそ「近代五種埼玉県選手権大会」というローカルな感じのものでしたが、内容は全国レベルのもの。男子にはリオ五輪の代表である三口智也選手が出場し、女子では北京五輪の代表である山中詩乃選手らが名を連ねます。選手たちも貴重な実戦の機会を逃がすまいとやる気十分なようす。

 しかし、途中展開としては五輪組が圧倒的というほどでもありません。バランスよく得点を重ねてはいるものの、得意種目と不得意種目では成績にバラつきがあり、三口さん・山中さんはフェンシングではそれぞれ1位と3位という好成績をあげるも、水泳では5位タイ・10位という成績。なるほど、上手い具合にもつれるようになっています。

⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1369570

勝負を決めるコンバインドの舞台

 もつれるからこそ、最後のコンバインドが面白くなると。水泳やフェンシング、馬術では1位になっても獲得ポイントが300点といったところですが、最後のコンバインドは2種目ぶんだけあって600点ほどになる配分。最後の競技だけ得点が2倍になります、というクイズ番組みたいな仕組みは、このコンバインドが苦手だと勝てないという意味でもあります。

 運営の方に五種目のどれが一番大事なのかと問うてみても、やはり最後のコンバインドこそが近代五種の華であるといいます。その点はもっとアピールがあってもいいのかなと思いました。五種だと聞くと5つも見るのは大変そうな感じもしますが、この立てつけなら最後のコンバインドだけ見ても楽しめそう。むしろ、最後のコンバインドだけ見るのがラクチンそうです。

レーザーピストルと的が並ぶブース。選手はここで的を撃ち、5射命中させることができたらランニングに移行できる

800メートル走ったらまた射撃に向かう。これを4回繰り返す

 コンバインドが勝負を決める。その触れ込みに偽りはありませんでした。コンバインドでは1秒=1ポイントで差がつくような仕組みになっています。ランニングのほうはある程度実力差というものがあらかじめわかっているでしょうが、問題は射撃のほうです。的に5発当てるというのが、コレがなかなか難しい。構えて、撃って、また構えるまでに3秒ほどはかかるでしょうか。一発外すごとに、ここまでの競技で頑張って稼いだポイントが帳消しになっていきます。

 そして「外してしまった」という気持ちは、さらに焦りを生んでいきます。1発外せば水泳での1秒差相当ぶんほどが帳消しになり、2発外せばフェンシングでの1勝分相当ほどが帳消しになる。そして、この射撃は5発当てるまで解放してもらえず、最大で50秒も足止めを喰らうというルール。それが合計4回もある。1発外すごとに客席からため息でも漏らされたら、精神的にもかなりキツイことになりそうです。

 厚いベールに閉ざされた近代五種の扉を開き、貴重な生観戦の機会を得たフモフモ編集長。しかし、この大会には思わぬ落とし穴が待ち構えていた……

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