岡本太郎の絵に付け足された原子炉建屋の絵は「本物」だった――Chim↑Pomインタビュー
――一芸術家として、既存の社会通念に対して戦いを挑む……という意味合いもあるとか。
卯城 それはそういう部分だけクローズアップして見てほしくないし、そういう思想に偏って制作しているわけでもないですよ。テクスチュアーを純粋に楽しんでもらうのも嬉しいです。僕らの表現って、例えば昔はカラスをいろんな場所に呼び集めたり(「BLACK OF DEATH」)とか、広島の原爆ドームの上で飛行機雲で「ピカッ」と書いたり(「ヒロシマの空をピカッとさせる」)とか、今回のもそうだけど、全部“現状復帰”を目指していて、場所の破壊はしてないんですよ。例えば「ヴァンダリズム」みたいに破壊をOKとする集団だったら、壁画にそのまま描いちゃうでしょうし。
エリイ でも、もし警察に捕まらないっていう条件があれば、ウチらの想像力ってもっと広がると思うよね……。それは無意識でも意識的でも凄く感じる。それは、私たちだけじゃなくってみんなそうなんじゃないかな。でも、そういうのがなければモラルも崩壊しちゃってなんでもアリは桃源郷のように思えるけど、実はナンセンスで面白くないセカイでしょうね。
――今回の騒動は“らくがき”と報じられているわけですが、どのようなかたちで壁画をアレンジしたのですか。
林 『明日の神話』は、もともとメキシコのホテルに設置されるために描かれたもので、そのホテルの壁にあわせるために右下にスペースが空いています。そこに立てかけました。ちゃんと、『明日の神話』はもちろん、壁も傷つかないように粘着力の弱いマスキングテープを使うなど、細心の注意は払っています。
卯城 どんなに表現がよくても犯罪がピックアップされすぎると共感されないじゃないですか。観てくれる人にそういう心配は極力与えないようにしてるよね。僕たち。
エリイ 非道徳的なことやって、作品をきちんと観てもらえなくなっちゃうのも嫌だもんね。
――岡本太郎画伯へのリスペクトとかはあるんですか。
エリイ 展覧会はもちろん観に行くし、グッズも買っちゃったり。でも、別に大勢いる芸術家のうちの一人みたいな感じですよね。そこまで超大好き! ってほどの感情はないかな。
卯城 岡本さんって面白いのは、これだけ日本で国民的な作家なのに、海外のアートシーンではまったく知られてないんですよ。でも岡本太郎がメディアに出て、ああいう風に面白くしたりとか「芸術は爆発だ!」とか世に広めたことはすごく大事なことだと思う。それに『太陽の塔』とかシンボリックなモニュメントを日本に建てたり、そういう意識の高さでアートと一般社会との繋がりをコアにしていく姿は、基本的にリスペクトできるよね。
林 『明日の神話』もやっぱり岡本太郎の意を酌んだ人たちが渋谷の場所に置くことを決めたんだよね。あそこって電車通るたびに振動とかあるし、絵にとってはよくないはずだけど、岡本太郎さんの精神を受け継いだ人たちがあそこに決めたからこそ、俺らも気付いた。
――3年前に物議を醸した「ヒロシマの空をピカッとさせる」の騒動を思い出しましたが。
卯城 あのときは原爆の記憶に対して、薄れてしまったことを共有しているうちらの世代と、まだ薄れていない方たち……って2つの当事者がいました。その上での作品でしたけど今回は、全員が同じ当事者だからよりシンプルに伝わったのかもしれないですね。
――これからも挑発的に発信していくやり方は変えないと。
エリイ 作品作りはガンガンやってくし、どんどん作ってく。イケイケでガンガンが信条だから!! だけど別に挑発的にってのは意識してないよね、実は私たち。
卯城 こういう面白がり方ってアートやグラフィティみたいな、商業とは別に個人が社会に介入していく文化にとって大事な話なんだけど、世間的には全然そういうのないもんね。それが良くも悪くも日本の特徴なんだけど。でも今の日本はそれが挑発になってしまうんだよね。悪意があるわけじゃないし、ただ新しい社会の面白がり方だって思ってほしい。ただ……実は僕たちは震災後に割合い早く、4月には福島に原発を見に行ったんですよ。破壊された原発の前で映像作品を作ってきたんですが、大メディアが発信しているニュースとか見ると、避難地域の外から遠巻きで撮影してるだけで、まったくその中がわからない映像ばかりが流れていた……。でもそこで働いてる人がいるわけじゃないですか。本来メディアは、映している内側を一番切り取らなきゃいけないはずなのにです。それに違和感を感じて、僕らは表現をするんだったら、同じ人間としてなるべく現場に近いところで、何かを体で感じなきゃいけないとは思いましたよね。身近に感じる事のなかでの制作が、作品のリアリティの部分のクオリティを上げていくんです。
エリイ もし、あの原発の中まで映った映像がガンガン出回ってたら、あそこまで行かなかったかもしれないし、ああいう映像作品は生まれなかったかもしれないよね。全ては神のみぞ知るっていう所で、自分達の力の及ばないところでも及んでしまったりする所が制作する面白さでもあります。
林 邪魔になっちゃうのは嫌だったんで、地震から数日経過して救援活動が終わる頃に支援物資をもって様子を見に行ったんだよね。さらにしばらくたって、ボランティアに参加したり。東京にいたらわからない生で見るリアルな原子炉建屋の表現をしたかった。
エリイ つまり、今回の爆発する原発の“らくがき”は、テレビのモニターを通して模写した絵じゃなくて、実際自分たちの足で福島まで行って、目の前にそびえたつメルトダウンした本物の原発を描いた世界で最初の絵だってこと! これからもチンポムを超よろしくね!!!!
Chim↑Pom(チン↑ポム)
2005年、エリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求で結成したアート集団。「生と死」をテーマにした作品や、現代社会に全力で介入した社会的メッセージの強い作品で評価を得、国際展への参加や今年開催された「アジア・アート・アワード」で日本代表に選ばれるなど、海外からの注目も高い。2010年3月には初の作品集「Chim↑Pom」が刊行された(河出書房新社)。6月にはChim↑Pom展「REAL TIMES」が大阪に巡回。今回の問題作「LEVEL 7 feat.『明日の神話』」も展示する
Chim↑Pom—チンポム作品集
なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか
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