クロファットはガイジン組のムードメーカー――フミ斎藤のプロレス読本#048【全日本プロレスgaijin編エピソード16】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「いいなあー、ガイジンの試合って……」
日本武道館のアリーナ席の後ろのほうで、20代後半くらいの男性ファンが独り言のようにつぶやいた。
リングの上では6人の外国人レスラーたちが“ふた手”に分かれてハイスパートhigh spotの品評会みたいな試合をくり広げていた。
ジョニー・エース&ザ・パトリオット&ジョニー・スミス対ダニー・クロファット&ダグ・ファーナス&マイク・アンソニー。
ガイジン、ガイジンといっても正確にはアメリカ人が3人とカナダ人がふたりとイギリス人がひとり。ダニー・クロファットが両手で中指を突き立てて“ファック・ユー”のポーズをキメると、ジョニー・エースはお得意の“ピース”でこれに応じた。主要カードからこぼれてしまったガイジンは前座の6人タッグマッチに押し込まれていた。
クロファットは、全日本プロレスの外国人選手団の巡業部長のようなポジションを受け持っている。シリーズ中は、クロファットが泊まっている部屋がガイジン組の集合ラウンジになる。
ロブ・ヴァン・ダムとか、マイク・アンソニーとか、まだ日本に慣れていないニューフェースはあまりホテルから外に出ようとしない。なにをするにもクロファット先輩のガイダンスをあおぐことになる。
それほど広いとはいえないシングルルームのドアはいつも開けっぱなしになっている。ちいさなテーブルの上にはCDプレーヤーとミニ・スピーカーがセッティングされていて、気にならない程度のボリュームで音楽が流れている。部屋のテレビのチャンネルはCNNに合わせたまま、なんとなく1日じゅうつけっぱなしにしてある。
ジャイアント・キマラがのそーっと現れて、ほかのボーイズがもう食事をすませたかどうかを聞いていく。パトリオットが写真週刊誌を片手に部屋にかけ込んできて、OJ・シンプソン事件の殺人現場をとらえたスクープ写真をみんなにみせてくれたりする。
クロファットは、ベッドの上であぐらをかいたりゴロンとよこになったりしながら、訪問者たちとおしゃべりをつづける、そのあいだに、冷蔵庫のなかのミニボトル類は1本ずつフレンチ・カナディアンの胃袋に流し込まれていく。
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