更新日:2022年07月08日 21:39
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安倍元首相銃撃「なぜ民主政治が優れているか。人が殺されない、ただその一点だ」/倉山満

※7月8日午後4時時点に入稿した原稿です。  たった今、安倍晋三元首相が狙撃されたとの第一報が入ってきた。
安倍晋三元首相

2020年9月16日、当時の安倍首相が官邸で内閣総辞職及び新たな政権発足について会見を行った際の写真(首相官邸公式Twitterより)

 ただただ、ご回復を祈るしかない。  現在、日ごろは批判的だった山本太郎氏や志位和夫氏も、安倍元首相の回復を祈っている。全党派一致で暴力を許さないのは当然だし、社会が動揺しないことが最大のテロ対策だろう。

明治以来、多くの政治家が命を狙われてきた

 思えば、明治以来、多くの政治家が遭難した。  元首相だと、伊藤博文、高橋是清、斎藤実が殺された。平沼騏一郎も狙撃されて重傷、敗戦時には家を焼かれている。現職首相だと、原敬と犬養毅が殺され、浜口雄幸は重傷を負った後に傷が悪化して死亡した。岡田啓介は2.26事件で難を逃れた。首相就任前だと、大隈重信、鈴木貫太郎。大隈は爆弾テロで足を失った。鈴木貫太郎は2.26事件で瀕死の重傷を負ったが奇跡の生還。後に終戦を成し遂げる。その後に家を焼かれている。  昔から政治家は命がけだった。日露戦争の際にポーツマス講和条約を結んできた小村寿太郎外相も家を焼かれている。演説会場で暗殺された政治家と言えば、蔵相を何度も務めた井上準之助を思い出す。

岸信介、三木武夫……戦後もテロとは無縁ではない

 戦後もテロとは無縁ではない。岸信介は首相を辞めた直後、暗殺未遂に遭った。三木武夫は現職首相の際に暴行を受けたが、テレビで生中継された。細川護熙も暴漢に襲われたが、無事だった。総選挙の立会演説会で、衆人環視の下で刺殺されたのは浅沼稲次郎社会党委員長だった。その場にいた池田勇人首相は「俺じゃないのか?!」と口走ったらしいが。その池田も襲撃未遂事件に遭っている。事前に防がれ、「池田首相襲撃未遂事件」を池田本人がラジオで知るという椿事があった。  比較的記憶に新しいのが、金丸信自民党副総裁銃撃事件だろう。演説が終了するや銃弾が飛んだ。当時、政界で絶大な権勢を振るっていた、金丸に対する脅迫だった。

民主政治は「人が殺されない」政治制度

 さて、今も多くの政治家が、今回の事件を「民主主義に対する暴挙だ」と憤りを表明している。なぜ民主政治が他の政治制度より優れているのか。人が殺されない、ただその一点だ。つまり、暴力による政変の否定である。多くの国が暴力による政治と決別して民主制度を採用した。  そして我が国においても、「憲政の常道」と呼ばれる政治的慣例(法的には憲法習律と呼ぶ)が確立される過程において、暴力による政変が否定されていった。日本最初の政党内閣を組織したのは、原敬とされる。原は絶対与党の立憲政友会を率い、最強の権力を持つ総理大臣であった。その原が1921(大正10)年、東京駅で刺殺された。後継総理は、政友会後継総裁の高橋是清が継いだ。「暗殺による政変を許さない」との意思表示である。
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2.26事件とは、選挙による民意を、暴力によって転覆した事件
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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