若い頃は「転職の猛者」でも急に就職難に?変化が激しいシニア転職市場
人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、シニア転職現場のリアルを紹介する。
今回は、コロナ禍以降、ニーズの変動が激しくなったシニアの転職市場について、過去2回のリストラを乗り越えたのに急に転職できなくなった設計技術者の事例から、リスクと最新のキャリアプランについて伝えよう。
若い世代に比べ、シニア世代では一度も転職を経験していない人材も多いなど、転職経験者が少なめで、転職回数も少ない傾向がある。転職に対するイメージが現在よりずっと悪かった「終身雇用」の時代に社会人になったためだ。
とはいえ、中には何回もの転職を成功させてきた「転職の猛者」とも言うべき、ミドルやシニアの人材もいる。長い年数の中で転職回数は、それこそ20代の転職回数とは比べものにならないし、今よりも転職が一般的でない時代に転職を成功させてきた事実は、本人の大きな自信にもなっているだろう。
しかし、何度も転職を経験しているからと言って「次もきっとうまくいく」とは限らないために注意が必要だ。
実は今、コロナや世界情勢の影響などもあり、転職市場の相場は、職種や仕事内容、エリアごとに違った変化が、細かい頻度で起きる時代となっている。数年前に高い評価を受けて転職に成功した人でも、今も同程度のニーズがあるとは限らないのだ。
今回は転職市場での高評価が急転直下し、就職難に陥ってしまったシニアの事例を元に、現在の転職市場の変化の速さについて注意を促したい。
私が経営するシニアジョブが提供するシニア向け人材紹介サービスには、早期退職に手を挙げた人や、すでに早期退職した人などが多く登録している。そのなかに、過去2回、リストラを切り抜けてきた産業用機器の基盤や通信配線などを設計する技術者 (50代男性)の姿があった。
自ら手を挙げたものも含め、過去2回の退職時には自身が納得する条件の仕事に移れた。もちろん自身の技術やスキルにも誇りを持っており、専門技術者として老後も活躍し続けられるだろうと思っていた。
そんな折、所属するメーカーが新型コロナの影響を受けて業務を縮小。50代の彼も退職する運びとなったが、「今回も問題ない、自分は転職できる」と、大きな不安はなかったという。
しかし、数社受けても内定を得られないどころか、選考の通過率も悪い。そもそも希望している自身の専門分野である産業用機器の設計の求人が、求人企業の所在地や規模感も含めて合致するものが少ない。焦って、私たちのシニアジョブAGENTを含む人材会社数社に登録したものの、そこでも苦戦が続いている……。
こうした状況に陥る中高年の求職者は、2021年頃から増えている。最大の要因は新型コロナウイルス感染拡大による経済の混迷だ。しかし、その後も世界的な製造や物流の混乱、コスト上昇は止まらず、さらにロシアのウクライナ侵攻が発生し、円安の加速へと続いている。
コロナ以前の転職市場では、人材需要や給与相場の上昇下降は比較的緩やかで、先の予想を立てることができたが、今や職種によっては数カ月スパンで人材需要や給与が変わってしまうことが増えている。上記に挙げた機械設計技術者も、もう少し受ける会社の規模やエリア、扱う製品対象について広げたり、あるいは未経験業務であってもチャレンジしたりすれば、求人にたどり着けたかもしれない。
これまで恵まれた待遇が長く続いた人が次の仕事に困るということがある一方で、また急に求人が出始めるといった変化がコロコロ起こり得るのだ。
何度も転職成功した猛者でも安心できない時代
何度も好条件で転職してきた専門技術者に訪れた苦難
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50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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