大阪市よりエグい中国の「公務員改革」――泥酔禁止、AV禁止、市民からの苦情で免職も…
「入れ墨狩り」や政治活動の制限など、日本では橋下徹大阪市長による市職員の規律強化策が話題になっているが、一方の中国でも同じ。かつて“人民総公務員”だったこの国でも、公務員改革が実行されようとしているのだ。
福岡市の市職員に対する禁酒令が話題になったが、四川省成都市でも、公務員が公衆の面前で酔いつぶれただけで免職となる「不良飲酒行為責任追及法案」が審議されている(『成都商報』6月29日付)。公僕たる者、酒は飲んでも飲まれるなというわけだ。
武漢市の運送業・武智義文さん(仮名・35歳)によれば、同市の公務員はさらに厳格なルールを課せられているという。
「ここらの警察や役人は横柄で、罰金や手数料をその場で徴収して懐に入れる不良公務員も多数いたんですが、数年前、『市民からの苦情を5回受けたらクビ』という条例が導入され、かなり態度が良くなった。中には市民に媚びへつらうような役人もいて、気持ち悪いくらいです……」
北京市在住の主婦・大西靖子さん(仮名・35歳)も、厳格な罰則規定で萎縮してしまった公務員の姿を目撃した。
「知り合いの市職員に、日本土産のチョコレートを渡そうとしたら、受け取りを拒否された。聞けば『市民から数十円以上の金品を受け取ったら、すみやかに報告すべし』という内規があるらしく、アメ玉一個さえもらわないようにしているのだとか。実際、缶ジュースをもらって報告せずに停職になった職員もいるそうです」
中国全土で行われている公務員改革は、罰則による締め付けだけではない。「特権的」として批判の多かった待遇見直しも進む。公務員はこれまで、医療費の全額または一部を国や自治体が補助してきた。ところが『南方都市報』(7月1日付)によると、江西省では経費削減のため、こうした医療費補助を廃止した。さらに広州市でも同様の計画を検討しているという。
補助の廃止だけならまだマシだ。『南方週末』(5月4日号)によると、財政難にあえぐ山東省済寧市で、市職員に地方債を無理やり購入させ、財源を確保しているというからブラック企業さながらだ。職員からは「元本だけでも返してほしい」という泣き声も漏れる。
重慶市在住の自営業・砂川孝昌さん(仮名・36歳)の知り合いの公務員は、改革のなか、最近ノイローゼ気味だという。
「公務員に対する不満を募らせている人民は、少しの落ち度ですぐに密告やクレームの声を上げる。規律が厳格化されて『何をやっても批判される』と、彼は車の運転も酒もタバコもやめ、外を歩くのが怖くなったと休日も家に引きこもっています。その彼は、公務員になったのを後悔してますよ」
規律強化や福利厚生の削減などが行われていることについて、中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰氏はこう解説する。
「公務員の特権的地位に対する人民の不満をかわすのが狙いだろうが、中国で本当に必要なのは公務員の質の向上。上からの一方的な決定で職務怠慢や副業や汚職に走る公務員を増やすだけで逆効果でしょう」
いっそのこと人民公社を復活させて再び「人民総公務員」にすれば、人民の不満は解消する!?
◆違反で即クビの公務員規定
中国でも「一生安泰」と言われる公務員だが、規律厳格化で意外にも簡単にその地位を失う。不採用・失職事由を紹介。
【犬猫料理の食用】
全国から批判の多い犬猫料理について、深圳市が市職員の食用を禁止した。食文化と言い訳しても通用しない!?
【AVの視聴】
江蘇省南通市では、公務員はプライベートを含め、AV視聴が禁止されている。オナニー禁止ということか
【婚前交渉】
南通市や遼寧省の自治体職員も、婚姻関係のないパートナーとの性交渉が禁止されている。不倫は即、免職だとか
【内向的性格は不採用】
青海省の採用試験で、成績上位3人が「性格が内向的」として不採用に。何を判断基準にするのだろうか
【性病保持者】
全国の公務員試験の女性受験者は、性病検査と月経記録の提出が義務づけられている。もはや人権侵害?
<取材・文/奥窪優木>
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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