“反アベノミクス”に反論。「雇用の質は改善していない」のウソ

連載01【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】

雇用の質も改善している

 私がハーバービジネスオンラインに投稿した記事『「アベノミクスは失敗」に反論。どうみても雇用は改善している』にて、アベノミクス以降雇用者が増えていることについて説明しました。恐らくこれについて異論を唱える人はもはやいないと思いますが、一方で「いや、雇用が増えたと言っても非正規雇用しか増えていないので、雇用の質は改善していない」といった意見をよく目にします。

“反アベノミクス”に反論。「雇用の質は改善していない」のウソ しかし、非正規雇用でも雇用は雇用です。所得ゼロの失業者と比較してどちらがいいのか、答えるまでもないでしょう。しかも、民主党政権下で減少していた労働力人口が安倍政権発足後、上昇に転じました。これが意味するのは「民主党政権下は、ただ単に就職を諦めて就職活動をやめた人が、アベノミクスによって再び就労の意欲を取り戻した」ということです。これは素晴らしい成果だと思います。

 そもそもですが、有効求人倍率が上昇し、失業率が低下し続けている状況、つまり労働市場が売り手(労働者側)有利の状況に変わっているというのに、「雇用の質が悪くなる」ということは起こりえるのでしょうか。実際、いわゆる「デフレの勝ち組」「ブラック企業」と言われていた企業が、人手不足のために人材の確保に四苦八苦している現状はニュースなどで見たことがあると思います。このように労働市場が売り手有利になると、企業は人材を確保し雇用者をつなぎ留めるために、労働条件の改善を余儀なくされてしまいます。給料を引き上げるなり、労働条件を緩和しないと労働者が逃げていってしまうからです。

 このような状況を目の当たりにしながらも「雇用の質が改善していない」と言い切ってしまう、その感覚が私には理解できないのですが、もう少し細かいデータを分析して雇用の内容について見ていきたいと思います。

不本意非正規雇用が実数、割合ともに低下

 非正規雇用者のなかには、正社員になりたいのにやむを得ず非正規に甘んじている方が少なからずいらっしゃいます。このような方々を『不本意非正規雇用』と呼びます。つまり、この不本意非正規雇用者の実数と、非正規雇用者全体に占める割合が減少していれば、正社員への転用が進んでいる、もしくは現在の非正規雇用としての条件に満足している人が増えていると言えるのではないでしょうか。早速その推移をグラフにしてみましょう。

⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=852063(図1)

3-1 残念ながらこの統計を取り始めたのは、安倍政権発足以降となるため、2013年からのデータしかありませんが、不本意非正規雇用者が数でも割合でも減少傾向にあることがわかります。2015年1~3月期時点で、不本意非正規雇用の割合は16.5%にまで減りました。これはつまりアベノミクスでは雇用の量だけではなく、質的にも改善が見られているということの証左と言えるのではないでしょうか。もし、アベノミクスにより雇用の質が悪化しているのであれば、この数値は上昇していなければおかしいと思います。

生産年齢人口(15-64歳)における正規雇用者が増加

 また5月1日に3月の雇用統計が総務省より発表されましたが、3月は前年同月で正規雇用者が38万人増加し、非正規雇用者は9万人増加しました。完全に正規雇用者の増加人数のほうが、非正規雇用者を上回っています。これはハーバービジネスオンラインの記事で私が「雇用の拡大はまず非正規雇用者からであり、いきなり正社員が増えることはない」と、説明していましたが、まさにこのことです。

 アベノミクス開始直後は、企業は比較的コストが安く雇用リスクの低い、非正規労働者を中心に雇用を拡大できていましたが、労働市場における人手不足が深刻化し、企業は非正規雇用では人材を確保することが難しくなってしまいました。そこで、最近になってやっと正社員への雇用拡大に切り替え、その結果が統計データにも現れ始めたのだと思います。とくに特筆すべきは15-64歳の生産年齢人口における正社員、非正規雇用者の増減です。以下は総務省のデータです。

・正規雇用者が29万人増加
・非正規雇用者が25万人減少
(2015年3月、前年同月比増減)

 完全に非正規雇用から正規雇用への雇用の転換が起き始めていることがはっきりとわかります。これは「雇用の質が改善している」とは言わないのでしょうか?

正規雇用の求人倍率は統計をとり始めて以来最高

 2015年3月における正規雇用者の有効求人倍率、新規求人倍率は、この統計を取り始めて以来の最高値を記録しています(図2)。

⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=852064(図2)

3-2 これを見てもまだ「雇用の質はよくなっていない」と主張する方いることに正直、頭を抱えてしまいます。彼らの言い分を紹介しましょう。

・求人倍率の上昇はリーマンショック後から始まっている。これは単なるショックからの反動である
・ウソの正規雇用求人が求人倍率を嵩上げしている

 というものです。まず、リーマンショックからの反動だという意見ですが、反動で元の水準まで求人倍率が回復するのならそれもわからないこともありませんが、現在の有効求人倍率はリーマンショック前の水準を上回っています。しかも、昨年は経済に大きくマイナスとなる「消費税増税」を行ったのにもかかわらず、求人倍率は上昇を続けています。単なる反動でこのようなことが起こりえるのでしょうか?

 また、次に「ウソの求人」ですが、これは表向きは正社員を募集しているが蓋を開けてみると求人内容は非正規雇用だったというものです。一時期ニュースで話題になり、私もその存在を否定する気はありませんが、アベノミクス以前、以後でこの「ウソの求人」の数が増えているのかどうかがわからなければ意味がありません。比較対象がなければ検証のしようがないからです。

 と言っても、昨今の人手不足は周知の事実。このような労働市場の状況下において、「ウソの求人」を出す意味が企業側にあるのかどうかはなはだ疑問ではあります。ブラック企業のレッテルを貼られ、企業イメージを大きく損ねるリスクが非常に大きいからです。また、そのような悪質な求人を出す企業に人は寄り付きませんので、その企業は人材不足に陥り将来的に苦境に立たされるでしょう。デフレのまっただ中であれば上手くいっていた採用方法なのかもしれませんが、デフレ脱却過渡期の今となってはまったく通用しないでしょう。

非正規雇用の役割

 これまで、正社員が増えたかどうかに焦点を当てて説明してきましたが、私は非正規雇用者の増加が悪いことだとは考えていませんし、非正規雇用者が正規雇用よりも格下だとか、劣っているとか、そのようにも思ってもいません。というのも、非正規雇用には非正規雇用の役割があるわけで、正規、非正規にかかわらず日本の経済及び我々の生活を根幹から支えている労働者であることに違いはないからです。

 正直いいますと、私はこのような「雇用の質」に対する議論は、まじめに働いている労働者を値踏みし、見下しているようであまり好きではありません。何度も言いますが、非正規雇用者も立派に社会に貢献している労働者です。もし政府が非正規雇用を一切禁止し、正規雇用しか認めない法律を作ったらどうなってしまうのか想像してみてください。世の中には身体的、家庭的、住んでいる地域によってフルタイムで働けない人がたくさんいるのですが、そのような方達を正社員で雇用することは非常に困難であるため、非正規雇用という雇用の受け皿がなければこの人達は職に就くことはまず不可能でしょう。また、コンビニや飲食店の店員が全員正社員になってしまうと、人員もかなり絞られてしまうため、ワンオペ、過重労働が一般的になり、これまでのような安価で良質なサービスは望めなくなります。結果、我々の生活水準は著しく悪化し、失業者数が増大することが予想されます。

 非正規雇用には以下のような役割が存在しています。

・フルタイムで働けない人、正規雇用までは望まない人の雇用の受け皿
・安価で良質なサービスの実現
・雇用の最大化

 先ほど不本意非正規雇用者が全体の16.5%である(2015年1~3月期)と説明しましたが、残りの約83%の方は望んで、自分の仕事に誇りを持って働いている方だと思います(その他に分類される方はわかりませんが)。その労働者の方々に対して、尊敬や感謝することはあっても、かわいそうだとか、哀れんだりすることは大変失礼なのではないでしょうか。

⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=852066(図3)

3-3 果たして「雇用の質」を執拗に連呼する者は、自らが非正規労働者を貶めていることに気付いているのかどうか。正社員が非正規雇用より優れているというわけではありません。それぞれに役割が存在するのです。そして皆誇りを持って働いています。

アベノミクスにより雇用のパイは拡大している

 また、反アベノミクスを唱える方々のなかには、「女性や高齢者の雇用が増えているのは、アベノミクスの失敗により生活が苦しくなり、働きに出ざるをえなくなった人が増えただけだ」と主張する方が少なくありません。もしかしたら、この方は就職しようと思えば就職することができる、これが当たり前のことだと単純に考えているのでしょうか。しかし、就職しようと思えば就職できる、それができるのが好況というものであり、できないのが不況というものです。労働者の供給が増加すれば、その分だけ労働需要が増えるようなことは現実にはありえません。きちんとアベノミクスによって雇用のパイ(企業の労働需要)が拡大している背景があるからこそ、女性や高齢者が就職することができているのです。

 アベノミクスにより雇用は量、質共に改善している。これは間違いないことだと思います。

まとめ
・労働市場が人出不足になるなか、雇用の質の改善が置き去りになることは考えられない
・不本意非正規雇用者が減少している
・非正規雇用から正規雇用への雇用の転換が起き始めている
・非正規雇用には非正規雇用の役割がある
・アベノミクスにより雇用の量、質は改善している

【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ

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