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ソマリア海賊初公判「1991年12月生まれはソマリアでは何歳ですか?」

東京地裁

11月4日、ソマリア海賊の初公判が行われた東京地裁

 東日本大震災の翌々日、ひっそりとソマリアから日本に連れてこられた4人の男をご存じだろうか? 彼らはいわゆる「ソマリアの海賊」で、商船三井が運行するタンカーを襲撃し、米国とトルコによって捕らえられ、日本に引き渡されたのだ。  そのうち、1人は未成年であることが判明し、家裁に送致されてた(のちに「刑事処分が相当」として逆送)が、本日(11月4日)は残り3人のうち1名の初公判があった。  記者はソマリ語国際放送「ホーン・ケーブル・テレビジョン」(HCTV)の東京支局(注)のボランティア・スタッフもしている関係で、東京支局長の高野秀行氏と裁判を傍聴してきたので、その模様を報告する。  ポイントは、この海賊も未成年なのでは?というところだ。  裁判が開廷し、通訳の人々が入廷したのち、4人の警護官に連行され、長身の黒人男性が入廷してきた。黒地の白のラインの入ったスエットスーツというラフな格好だ。痩せており、特に緊張した様子などは見受けられない。    裁判は、女性の通訳が日本語を英語に通訳し、ソマリ人の黒人男性が英語をソマリ語に通訳する、という方式で行われたが、名前と職業などを裁判長が尋ねる。「職業はいろいろ経験してきましたが、最近ではガードマンです」などと被告が答えると、裁判長は「年齢についてはあとで尋ねます」と語り、検察や海上保安庁からの報告書を読み上げる。  ソマリアはよく、無政府状態と言われるが、実際には北部のソマリランド、北東部のプントランドなどの自治政府が存在し、選挙なども行われている。だが、いずれも国際社会からは承認されていない。裁判でも、海上保安庁が外務省に「被告の年齢をソマリアに尋ねてほしい」と依頼したところ、「ソマリアはソマリランド、プントランド、TFG支配下にわかれており、全体を支配している勢力はない。また、日本政府はいずれも承認していない。いずれの勢力も被告の身元がわかるような支配をしていないので、回答は得られない」と報告されたと明かされている。  そこで、裁判長が被告に年齢を尋ねると、「1991年の12月22日生まれ」と被告は回答した。ということは、19歳で未成年ということになる。  だが、なぜ被告はこれまでの取り調べで生年を述べなかったのか、と尋ねられると、「だいたいの年齢しか聞かれなかったと思っていたので、おおまかに21歳と答えた」との旨を証言。  次に裁判長がした質問がふるっていた。 「では、1991年12月22日生まれとして、ソマリアではそれは何歳になるんですか?」  日本に住む我々からすると、「そりゃ19歳だろ」ということになるが、被告が述べたところによると「ソマリアの伝統的な暦は、雨期を使うのだが、それによると21歳未満か、もっとも若くて19歳」とのこと。 「どの雨期を使うのか、使える雨期があるのかなど、とても難しい」と被告は語っていて、どういう数え方をしているのかは、特に説明がなく、さっぱりわからなかった。  恐らく、数え方は共通していないのだろうが、昔の日本では数えで年齢をカウントしていたように、満年齢と数えの年齢で年が一つ違う、みたいなことが発生していたのではないか、と推測される。  ともあれ、年齢に関するやりとりなどがあったのち、20分ほどの休廷を挟んでから、「ソマリアを実行支配している政府がない以上、客観的に本人の年齢を証明する資料もなく、本人が未成年であるという主張をしりぞけることができない」という理由で公訴棄却の判決が下った。  彼は家裁に送致される予定とのことだが、もしもこの「海賊少年」が逆送されなかった場合、どこかの少年院に入ることになるのだろうか? そして、少年院から出てきたら、いったいどこの国へ戻ることになるのだろうか? (注)東京支局設立の経緯は後日、記事にする予定だが、「ホーン・ケーブル・テレビジョン」(HCTV)東京支局は、一連のソマリア海賊裁判を鋭意取材中である。支局長の高野氏の許しがある限り、また日刊SPA!に需要がある限り、続報をしていきたいと思っている。 取材・文/織田曜一郎(本誌兼「HCTV」東京支局ボランティアスタッフ)
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