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「手塩にかけて育てた野菜が大してうまくなかったりする」自給自足を目指す農業漫画の醍醐味

 現在、週刊SPA!にて連載中の『ぼっち村』。アラフォーにして売れない漫画家・市橋俊介が農村へと居を移し、みずから畑を耕し、近隣住民と交流し、手塩にかけて育てた野菜によって自給自足を目指す農業漫画である。  難航を極めた物件探しに、育たない農作物。過酷な自然の洗礼、野生動物との果てしなき戦い。そして、人付き合いの苦手な市橋が織りなす、近隣住民との交流……。そんな苦難やらなんやらのドタバタの記録である連載をまとめた単行本が、ついに9月2日(水)発売となった。(現在、日刊SPA!では現在第1話~第11話を無料で試し読み公開中!)  第3弾となる著者の市橋俊介氏へのインタビュー。連載しかり、第2弾のインタビューしかり、汗水たらして苦労するようすに目が行きがちな「ぼっち村」だが、今回は「ぼっち村を始めて良かったコト」を市橋氏に激白してもらった。 ⇒前回「水や空気がとてつもなくおいしい!」 ◆「地元の住民、そして読者との交流」  すべてが順調ではありませんでしたが、なんだかんだで周りの住民には恵まれていたと思います。ボクは明らかに、田舎暮らしをする前より人と交流していますね(笑)。また田舎の老人はとにかく元気です。60代ならまだまだ働き盛りですしね。ぼっち村で畑をやる必要がないほど、野菜をお裾分けしてもらったりでありがたい限りです。今のボクのメインの交友関係の平均年齢は軽く70歳を超えてますね(笑)。  また、昨年の秋に敢行した「ぼっち村の野菜プレゼント企画」に応募してくれた読者の中には、いまだに応援メールをくれたり、沖縄から食料を送ってくれる人もいて本当にありがたいです。漫画では紹介できなかったけど、パン焼き器を下さったかたや、巨大な業務用ガス炊飯器を何故かボクに贈ってくださったかた(その後、許可を得て転売してしまいましたが!)がいたことにも、ココでお礼申し上げます。
応募のあった読者たちに贈ったぼっち村産の野菜たち

応募のあった読者たちに贈ったぼっち村産の野菜たち

 そして農作業用にと趣味のマラソン大会の参加賞のTシャツをかなり大量に送ってくれた人もいて、「どんだけマラソン参加してるんだ?」と驚かされたりもしました。ぼっち村の読者が変わってるのか、SPA!の読者自体が特殊のか、ボクなんかより面白い人ばかりでした!
ありとあらゆるモノがぼっち村に届けられた

カップ焼きそばに雑誌、そしてなぜかマネキンの頭部まで……ありとあらゆるモノがぼっち村に届けられた

◆「寒さへの意識も変わる!?」  最初に引っ越したぼっち村で氷点下10度、第2期の高原のぼっち村で氷点下20度を下回る冬を体験したので、寒さに対しての意識が変わったことも面白い経験でしたね。当然寒いことは寒いんですけど、室内ならなんだかんだやっていけますし、風さえ吹かなければ意外に平気なんじゃないかと悟りました(笑)。むしろ暑いときのほうがエアコンもないので辛いんです……。  ただ、田舎暮らしをするにあたって、車のタイヤはスタッドレスやチェーンが必須です。路面が凍結する冬はもちろん、年がら年中、山道を運転しているので、車の運転も上達したような気がします。いざって時には、凍結路面の上をスルスルと車を駆るプロドライバーとして、南極に移住してもイイかなと思ってます! 嘘です!!
路面がガッチガチに凍ったぼっち村周辺の冬の林道

路面がガッチガチに凍ったぼっち村周辺の冬の林道

◆「やはり最高の幸せは、自分で作ったモノを食った瞬間!」  このぼっち村は、人間力にも生命力にも乏しい、あらゆる面でダメなボクが、何の知識も経験もないままに、いきなり田舎で自給自足を目指すという、いかにもSPA!的な、大胆で悪趣味な(笑)企画として始まりました。正直に申せば、ボクは農業にまったく興味もないような人間でしたし、今だって農業の知識や経験はほぼゼロの状態です。しかしそれでも、自分の植えた種から芽が出て、苗へと育ち、実をつけた時は嬉しくなります。  どうせなら漫画のネタにと、海外の変なサイトなどから、珍しい野菜や果物の種を買ったりもしていたので、そもそも芽が出ない野菜さえかなりありました。種を蒔いたことさえすっかり忘れていた半年後に突然芽を出すおかしなヤツラもいて、そんな野菜でも育っていく姿はやはり可愛いモンなのです。  そして、そうして手塩にかけて育てた野菜が大してうまくもなかったりするのです! もちろん予想に反して、ボクなんぞに育てられたくせにプロ並のモノもありましたが、大半はムムッと首を傾げたくなるようなレベルです。なんだかやけに繊維っぽくて固かったり、大味以前に小味といいますか、無味だったりするバカモンもイッパイありましたが、ソレでもやはり……最高なのです!
第42話「夏の収穫祭!」より

第42話「夏の収穫祭!」より

 自分が作った数々の野菜を口にできたのは、このあらゆる面でダメな、ぼっち村生活の最大の幸せでした。まだまだ自給自足にはかなりほど遠いものがありますが、少なくとも漫画を描くことよりは、自分の才能や可能性を感じさせてくれました(笑)。そして次はもっと上手に、もっとおいしく育ててやろうとの態の良い決意を抱いてるふりをしながら、ボクは今日も、ぼっち村の美味かったり美味くなかったりする野菜を食らってます!
見事なグラデーションを見せた収穫間近のミニトマト

見事なグラデーションを見せた収穫間近のミニトマト

 そんな悲喜こもごもな農業生活のようすは、現在全国の書店で発売中の『ぼっち村』単行本で要チェック!(帯にはなんと、今をときめく売れっ子作家、伊坂幸太郎さんのメッセージが!)。東京生まれ東京育ちの軟弱アラフォー男子・市橋俊介があがいた2年間の農業生活の一部始終を、震えて読むべし! <取材・文/日刊SPA!編集部>
ぼっち村2

農業経験も人脈も根性も何も無い軟弱アラフォー男による田舎暮らしドキュメント漫画、それが「ぼっち村」


ぼっち村

男はたった一人で生きていけるのか?

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