日本橋は東海道五十三次の起点、江戸時代から日本のカルチャーの中心であった。明暦の大火(1657年)での焼失を機に現在の台東区に移転したが、江戸遊郭の「吉原」はもともとはここ、日本橋にあったのだ。そんな色街も、平成の世ではすっかりオフィス街に変貌、男の遊び場としては“機能不全”に陥っている。しかし、その旧吉原から目と鼻の先、明治座近くに「花街」があると連絡をくれたのはお馴染みO氏だ。
雨上がりの土曜日の夜、氏が待つというその店を目指した。
◆静かなオフィス街に突如現れた桃源郷
「土曜日の夜は賑やか、ダウンタウンへ繰りだそう」。鼻歌をくちずさみつつ地下鉄の長い階段を駆け上がると辺りは暗がり。オフィス街特有の静けさだ。不安は的中、見事に道に迷う。雲間から現れた月に照らされひっそりと佇む立て看板。「BUNNY BAR」。看板が指すはオフィスビル。エントランスにそれらしき文字はない。エレベーターで上がると鋼鉄のドア。屋号も何も書いていないが、耳を押し当てれば、かすかに矯声が。
「いらっしゃいませ~!」
わずかに開けたドアの先、ピンクのバニーちゃんと目が合った。瞬くネオンが目に染みる。すでに出来上がったO氏が隣で手招きしていたのはガールズバーであった。
オフィス街のバニーを探しに来て!
「全然見つけられなかったって初めてのお客さんは言うんですよ」とハニカみながらおしぼりを渡してくれたのはピンクバニー姿のユイちゃん(21歳)。灰色のオフィス街から急転、見事な谷間が目にも眩しい。ユイちゃんの隣にはブラックバニー姿のリコちゃん(23歳)が。O氏の舐めるような視線を一身に浴び続けていたようだ。
「早い時間帯は超穴場。バニーの独り占めができるんですよ!」
と目を光らせるO氏。夜遊び不毛の地を開拓する嗅覚に感服する。
「ウチのお客さんは鏡の中のほうが好きみたいで、目も合わせないでガン見する人ばかりです(笑)」
男心を知り尽くした“匠の技”。前屈みで鏡を凝視すると目が合う呆けた顔、顔、顔。いつしかご同輩でカウンターは埋まっていった。お尻ばっかり見てないで、もっとお話ししましょ!
江戸時代から脈々と続く、男のオアシスの記憶。日本橋の夢物語は終わらない……。
【Canan(カナン)】中央区日本橋久松町13-5
日本橋エクセレントビル4階
TEL:03-6661-9290
営:17時~翌5時
休:日・祝
料:2800円(60分・飲み放題)~
神田にある同店の2号店。神田店が満員でこちらに流れてくるお客も多いとか
<撮影/渡辺秀之 協力/O氏(夜遊びガイド)>
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苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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