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レディオヘッドのライブは超絶体験だった【樋口毅宏のサブカルコラム厳選集】

―[樋口毅宏]―
さらば雑司ヶ谷』『タモリ論』などのヒット作で知られ、最新刊『ドルフィン・ソングを救え!』も好調な小説家・樋口毅宏氏。そんな樋口氏がさまざまな媒体に寄稿してきたサブカルコラムを厳選収録した『さよなら小沢健二』が好評発売中。本書の発売を記念して傑作テキストを特別公開いたします!(当コラムは『週刊SPA!』2012年9月11日号に掲載されたものです)  来月も再来月もフジロックについて書きたいと担当に伝えたところ、「大根仁さんが前回、東京に戻ってきた翌日に原稿責了で掲載したからネタが古い」と断られたけど、どうしてもこれだけは書かせてほしい。

8枚目のアルバム『ザ・キング・オブ・リムス』リリース後、初の来日公演は「フジロック・フェスティバル'12」だった。「サマーソニック 2016」の第一弾アーティストとして出演が発表されたばかりのレディオヘッド、新作が待ち遠しい!

 レディオヘッドが最高だった、ということである。いいや、そんな言葉では到底伝えきれない。次元が違っていた。超絶体験とは、あのことだった。全盛期のツェッペリンはあんな感じだったのだろうか。トム・ヨークが米粒にしか見えないぐらい離れたところから観ていたのだが、1秒たりとて退屈しなかった。何だったのか、あのステージング。何がどう凄いとか、どれだけの言葉を持ってしても言い表せない。渋谷陽一言うところの「音楽を言葉で語ることの不毛さ」がそこにはあった。「肉体性の獲得」とか、そんな甘いレベルじゃない。あれは1日24時間、もしくはそれ以上音楽について考えていないとできない、そしてそのために常日頃から体を鍛え抜いておかないと不可能なライブだった。  オリンピックが繰り広げられているのはロンドンだけではなかった。まるで金メダル確実のアスリート。しかも二位とどこまでも大差をつけ、自分の作った世界記録をさらに更新しようとしていた。もちろんロックの素晴らしさは独創性やアスリート性だけではない。しかしあのライブは四半世紀以上見続けてきた、聴き続けてきた僕のロック観を変えてしまうほどだった。  断っておくが僕はレディヘ信者ではない。ましてやここ2、3枚のアルバムは、「自家中毒じゃん。この人たちもうあがりでしょ? 完全に形骸化しているよなあ」と鼻で笑っていた、にもかかわらずである。  フェスは表面的には幸福そうな空間に見えるが、実力測定値の場でもある。はっきり書くけど、今回ヘッドライナーを分け合った元オアシス兄弟は、本当に差を付けられちゃったね。近年の話題が喧嘩と解散とブランドショップの人たちは、逆立ちしても何しても敵わないよ。そりゃ俺は越後湯沢駅で偶然出くわしたリアム・ギャラガーに握手してもらったよ? 3.11で寄付してくれたことも嬉しいです。感謝しています。でもね、夜な夜な有名人と飲んだくれて、ライブでは「初期の名曲をシングアロングでみんな満足!」に胡坐をかいているような人たちはダメでしょ。  思い入れや共感は音楽において重要な要素だけど、時としてくだらなく思えるときがある。頭の悪い比喩を承知で言わせてもらえば、旧式のスカウターなら一発で壊れてしまうぐらいの数値を眼前に突き付けられてしまった今はなおのこと。ライブ終了後、「『クリープ』も『ノー・サプライゼス』もやんなかったじゃん」と不満を漏らす人たちがいた。確かに僕もライブは観客の求める曲をやってナンボだと信じていた。『OKコンピューター』と『KID A』から何曲やるかが満足度の鍵と思っていたが、そんな「お約束」など、今のレディヘには低俗なレベルだ。文句を並べていた人たちと僕がロックに求めているものは根本的に違う。話が合うことは永遠にないだろう。  レディヘのライブは『アムニージアック』をリリースした武道館以来11年ぶりだったが、再結成ローゼズの奇跡も、ドラゴンドラの感動も、ファクトアップの興奮も、見事なまでに全部吹き飛ばされてしまった。彼らのライブを見続けてこなかったことを深く反省した。  改めてもう一度。凄いぞレディオヘッド! 俺ぬかってたわ。  フジロックから帰宅後は、「ちゃんと聴き込んでこなかったかもしれない」と反省し、ここ2、3枚のレディヘのアルバムをかけながら仕事をしている。俺も彼らに負けぬよう、1日24時間以上、小説について考えている毎日です。

樋口毅宏の“愛”溢れるコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)は好評発売中!

樋口毅宏●‘71年、東京都生まれ。’09年に『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。新刊『ドルフィン・ソングを救え!』(マガジンハウス)、サブカルコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)が発売中。そのほか著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』など話題作多数。なかでも『タモリ論』は大ヒットに。
―[樋口毅宏]―
さよなら小沢健二

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