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石野卓球「取材のたびに同じこと言わせるな!」 6年ぶりのソロ作発表のインタビューで…

石野卓球:いや、でも、ほんといいわ。紙媒体の取材で毎回同じことを言うっていうのがなくなったから。今、実感してる(笑)。 ――なのになんでこいつは同じことを言わせようとするんだと? 石野卓球:これ、昔は同じことを何回も何回も言ってたと思うと、ゾッとするよね。昔はもう、考えずにしゃべってたもんね。5~6誌から取材を受けたあたりから「このアルバムはですね――」って目をつぶってても言えるっていうかさ。『VOXXX』(2000年2月2日リリースの8枚目のアルバム)の時なんか100誌以上から取材受けたからね。 ――去年のドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE?』の時は、けっこうなプロモーション稼働もされてましたよね。舞台挨拶とか。 石野卓球:あ、でもあの時に、映画はまだ音楽よりも、ああいう宣伝が有効だなって。CDはamazonで買って届けてくれるじゃない? 映画はある程度能動的にならないといけないから、そこに関して注意してるというか。自分のスケジュールを映画に合わせるって行為が必要になってくるじゃない? だからけっこう能動的っていうか、たとえば宣伝とかそういうものに耳を傾ける姿勢が違うっていう感じがした。 ――それに引き換え、音楽の方は効果がないと。 石野卓球:ないってわけでもないけど、(サンレコとブロスを指して)これがいい例だと思うんだけどさ。専門誌かまったく関係ない雑誌、これでいいんだもんね。今回のアルバムの場合、この間はいらないっていうか、ほんとに。歌詞とかあれば、また話は違うかもしれないけど。コンセプトとか。 ――まあインストゥルメンタルのテクノというのは、説明しづらいジャンルではありますよね。 石野卓球:うん、説明しようがないもん。で、その説明しようがない音楽を説明するのが、本当はジャーナリストさん、記者さんの仕事なんですけど、それをこっちに下駄を預けて「作ったおまえが説明しろ」みたいなさあ(笑)。でしょう? 挙句、それで仕事が回らないとなると、よそで手厳しいレビューを書いたりして、足をひっぱったりする行為をするわけじゃん。テロ活動を。文字テロを(笑)。 ――はははは! したことありません。 石野卓球:ロクなもんじゃないですよ。地獄だよ地獄、落ちるのは。モジゴク(笑)。活字がいっぱいある地獄に。 ――えーと、それで、このタイミングで、膨大にストックがある中から曲を選んで、アルバムにして出してもいいなと思ったのは――。 石野卓球:それもサンレコに書いてあるんだけど――。 ――はい、読みましたけども――。 石野卓球:書いてあることは聞かないでよ、知ってるんだからさあ(笑)。全部引用でいいじゃん。「と、書いてあったんですけど、卓球さんいかがでしょう?」「そのとおりです、以上」で(笑)。だからさ、書いてあるけど、テーマが先に決まっていて、それに合わせて曲を選ぶっていう感じだったんで。DJセットをレコードの中から選ぶのと同じようなやりかた、っていうふうに書いてあったでしょ?(笑)。 だからべつに、完成度がどうのこうのっていうわけじゃなくて。100曲以上あった中のトップ10がこの10曲、っていうわけではないです。テーマにムードが合ってたってだけで。 ――サンレコによると「性的趣向」「性的経験」というテーマですが。こういうテーマにしたのは――。 石野卓球:そりゃ知らねえよ、こっちも(笑)。テーマにしたのは、そういうのをテーマにしようと思ったからじゃないですか? いやらしい気持ちだったとか、いろいろあるけど……サンレコに書いてあることを、もう読んでる人に説明するのはちょっと(笑)。その手には乗らないぞ、っていう。……っていうような話でいいんじゃない? 兵庫さんは、どういう話をしようって考えてきたの? 見出しはこういう感じにしようとか決めて来たの? だったらそっちに寄せてもいいけど。 ――いや、見出しとか前もって考えてないですよ。 石野卓球:じゃあもっとおもしろいのにしようよ。「えっ?」っていうようなさ。兵庫さんおもしろくないんだから、俺がおもしろくしようっていう。兵庫さん、あんまおもしろくないんだよ。 ――はい、重々自覚してます。 石野卓球:でしょう? いじられておもしろくなるっていうのはあるけど、俺はいじられるキャラじゃないから。瀧がいじられる役だから。 ――官能とかエロスっていうテーマを決めて、ストックの中から曲を選んだっていうのは――。 石野卓球:官能とかエロスっていうのは、後からアルバム全体を俯瞰した時のイメージですよ。だって言わないでしょ、「うわ、今官能の曲を作ってる」とかさ。そういうのではないです、いやらしい気持ちで作ったっていうだけで。 プロモーションするにしても、このアルバムって、ちょっとクセがあるじゃない? エロスだとかさ、売りがさ。それをガンガン推しても、そういうの聴きたくない人もいるから。女装と同じですよ。それをわざわざ見せて回らないっていう。変態は変態ですけど、「変態ですか?」「ああ、変態ですよ」って、それは隠しませんけど、「じゃあこっち来て、みんなの前で変態を見せてください」って言われると「ええっ、ここでですかぁ?」って(笑)。「学校ですよね、ここ?」っていう。 ――あはははは! 石野卓球:ね? マイナスじゃないですか? お縄になっちゃうし(笑)。「好き者が集まるハプニングバーがあるんで、そっちのほうで今回の話をしていただければ」っていうのであれば、それは確実に効果がありますよね。ただそれは人数が少ないから、草の根運動的にやっていくっていう。今のネットとかだと、好きな人が必ず集まるところがあるから、しかもタダで。そこに伝えることができるから、そのほうがいい。と、ここで最初の話に戻ったんですけど、どうでしょう?(笑)。 ――すばらしいです。助かりました。 石野卓球:ねえ? よくないですかこれ? ブラーッと適当に、あみだくじ形に歩いて行ったら、最初のとこに戻ってきたみたいな(笑)。今のいいんじゃないですか? あとは多少、俺が言ってないことも付け足していいから(笑)。 ――何年か前に石野さんのインタビューを読んだら、「CDを出すっていうことの意味がわからなくなった」とおっしゃっていたのが印象的で――。 石野卓球:ああ、CDを出すことっていうよりも、売るという行為が……メジャーなレコード会社にいてあれだけど、それでおカネを儲けていくっていうことは変わんないんだけど、売るっていう行為が今までと根本的に意味合いが変わってきたから。作るのは変わらないですよ? やっぱりできたらうれしいし。ただ、昔ほど届かないっていうか……幸い、自分を支持してくれるお客さんたちは、まだCDを買う層が多いからいいんだけど、でもこれをずっとあたりまえのこととして考えていくっていうのは、ちょっと危機感を持った方がいいなと思った。 作るモチベーションは変わらないけど、昔と違うのは、作りながら……電気の初期の頃とか「よおし、アルバム出たら印税で何買おう?」っていうのがあったけど、そういう邪念はなくなった(笑)。より純粋になった、そういう点では。いいことじゃないですか? それは。 ――このタイミングでソロのアルバムを出すというのはご自分から? レコード会社の要請? 石野卓球:いや、自分からですよ。ほんとはもっと前から「出さなきゃ」っていう話はあったんだけど、結局立ち消えになっちゃって。電気の活動がずっとあったんで。で、特に「そろそろ」ってわけでもなかったんだけど、ここんとこリリースがなかったから。去年の暮れぐらいかな、その100曲ぐらいを発掘して、「ソロを出そうと思えば出せるような気がするんですけど、どう?」って言ったら、そっからとんとん拍子に。実際、今年に入ってからの作業も短かったしね。2ヵ月とかそんなもんで。 ――それにしてもこのアルバム、すごくよくないですか? 石野卓球:すごくいいと思ったから出してるんですよ? すごくいいと思います、自分でも。最初のその、派手なものを作ろうと思ってたような……それは邪念とは言わないけど、それって自分の中から出てきたものじゃないじゃないですか。「こういうものにしよう」っていう意図があったわけで。このアルバムは、「こういうものにしよう」っていう意図もあるけど、それ以前に「こういうものが作りたい」っていうのが先にあった。モチベーションよりもパッションが最初になってるから、やっぱりそれは今までと全然違いますよね。今までソロアルバムはその制作期間に作った曲を集めたものだったのが、そうじゃないですからね。……これぐらいでいいんじゃない? これでもうもつでしょ、今の話で(笑)。 ――バッチリなんですけど、できればもうひとつだけお願いできませんか(笑)。 石野卓球:もう1個ほしい? だから……まず期間の限定がなくて、「ここからここまでの間に作ったソロ・ワークスですよ」っていうのがないのと、あと、テーマが一貫したものだからじゃないかな。今までも、セックスとか性的なものをテーマにするっていうのはあったんだけど、アルバム全部を通してっていうのはなかったのね。『throbbing disco cat』(3枚目のソロアルバム。1999年リリース)とかは、ジャケットはそうだけど、中にはそうではない曲も入ってる。そういうのがなくて、テーマ以外の曲は入ってないっていう感じなんで。ちょっと言い方がふさわしいかどうかわかんないけど、あるテーマがあって、それのサウンドトラックっていうか。そういう感じですよね。
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いやらしいことの大事さって、石野さんの中で上がってきてるんですか?
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LUNATIQUE

日本が世界に誇るテクノ・マエストロ、石野卓球(電気グルーヴ)による、6年振りのオリジナル・ソロ・アルバム。全10曲からなる、“官能と恍惚”のエレクトロニックミュージック集

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