更新日:2024年04月03日 18:03
エンタメ

YOASOBIの「アイドル」が映し出す日本の姿とは?“執筆3年の邦楽通史”に対する想いも<みのミュージック>

 YOASOBIの「アイドル」やCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」が世界的にヒットしている。サブスク全盛で海外の音楽ファンもJ-POPを楽しめる時代になった。しかし、日本人は自国のポップス史についてどれぐらい知っているのだろうか?
みのさん

音楽評論家のみのさん

にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史』(KADOKAWA)を上梓した、音楽評論家のみの氏@lucaspoulshock)。インタビュー前編は、明治維新以降の音楽教育の西洋化がJ-POPへと結実する流れを語ってもらった。インタビュー後編では、執筆に3年もの期間を要した「縄文楽器から初音ミクまで」を網羅する壮大な通史の苦労とやりがい、そして一連の音楽史から見えてきた“日本人像”へと話は及んでいく。

「批判も含めて議論が白熱するほうがいい」

―――本書に登場する参考文献の数には圧倒されます。ご自身でも<霧のなかの八合目を、延々と登っているような気分――。>(p.462)と書かれていましたが、改めて苦労された点を教えてください。 みの:大変だったのは、戦前から江戸後期についての箇所です。僕の中での解像度が低かったので、根本から学ぶ作業から始まりました。あとは、レゲエやヒップホップ、テクノに関するまともな本が全然ない!(笑)。だからできるかぎり資料をかき集めてまとめていったわけです。 ――それでも、いろいろと指摘してくる人はいる。 みの:はい。X(旧ツイッター)でもいろいろと言われました。ただ、そういった批判的なポストも含めて議論が白熱するほうがいいじゃんという考えですね。でも、いざ本を出してみて、その結果が非難轟々といった感じだったので、“なるほど、だから邦楽通史を書くなんてことを誰もやってなかったんだな”と。完全にやぶ蛇でした。

はっぴいえんどと沢田研二、どっちがおしゃれ?

みのさん

みのさん

―――(笑)。では、改めてJ-POPのヒストリーに話を戻しましょう。日本の音楽の西洋化、近代化の到達点として、ラジオ局のJ-WAVEが果たした役割に触れています。<J-POPは、伊澤修二率いる音楽取調掛による改革以降、揺れ動いてきた日本人の音楽観が一二〇年以上をかけてようやく着地した地点ともいえる。国家意識の高揚を背景に日本人が求められ続けてきた自分探しの旅(原文傍点)がここでようやく終わったのだ。>(p.397-398)、それを後押ししたのがJ-POPをより洗練の方向にブラッシュアップしてきたJ-WAVEなのだと。その点をもう少し詳しく教えていただけますか。 みの:洋楽的な音楽を解析して翻訳する、いわゆるアーリーアダプター的な人たちを、おしゃれな邦楽として洋楽と並べてキュレーションしたいってことだったんでしょうね。それはたとえばシティポップと言われる人であったり、サザンオールスターズなどが挙げられます。 ―――でもそれって本当に“おしゃれ”だと言えるんでしょうか? みの:僕の感覚で言うと、はっぴいえんどと沢田研二、どっちがおしゃれなのって言われても別に変わらないんです。でも、クリエイターも聞くほうも日本のポップスの歌謡曲臭さみたいなものを消したいという思いは持っていると感じます。でも消せないんですよ。やっぱり日本人で音楽を作る以上は決して消せないし、音楽が好きになればなるほど、その歌謡曲臭さにすごく自覚的になるんです。冷静に平均的な日本人の耳を考えると、視座はだいぶ低くて、やっぱり歌謡的な要素が中央値にあると思うんですよね。
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“東洋VS西洋”の構図はマチガイ
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史 にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史

YouTube「みのミュージック」で独自の音楽批評をおこない、多くの大人たち・音楽関係者を魅了する著者の第二弾

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