シャイなホークがみつけた、いっしょにいてラクなサムバディ――フミ斎藤のプロレス読本#029【ロード・ウォリアーズ編エピソード14】
女性といっしょに暮らすなんて、何年ぶりだろう。まえにいちど結婚していたときも、カミさんとずっと同じ部屋にいるとそれだけで窒息しそうな恐怖感に襲われたりしたけれど、こんどの彼女はいっしょにいてラクな人らしい。
こんなことを口走ったら軽べつされちゃうという“放送コード”のようなものもないし、新しい彼女は自分のことはなんでも自分でやっちゃうタイプなので、ホーク=男の子のほうであれこれ気をつかって動いてあげる必要がない人なのだという。
暑い土地ではとにかくリラックスすることだけを考えていればいい。
ひと夏のあいだにホークの家はたてつづけに4度もハリケーンの直撃を受けた。大西洋に吹く嵐がハリケーンで、太平洋に振る豪雨がタイフーンだということをそのとき初めて教わった。
ミネソタン(ミネソタ人)はトルネードしか知らない。ホークは、海の上で真っ黒な入道雲が踊りはじめるたびに家じゅうの窓という窓にステンレスのシャッターをおろすことをおぼえた。
デイルさんとの生活は、ホークをヘルス・コンシャス人間に変えた。お酒はほとんど飲まなくなったし、夜中にふらふらと外へ出ていくクセもおさまった。
ちょっと調子が悪いと思えばすぐにドクターのアポイントメントをとるし、病気はしたくないと本気で考えるようになった。仕事だって、いいものと悪いものを選別するようにしている。
デートをする、お付き合いをする、という感覚をすっかり忘れていた。彼女いない歴が長くなると、こういうシチュエーションではこういう技を出せばいいというハイスパートhigh spotがわからなくなってしまう。
ヘンなところでヘンな大技を使ってもてんで意味がないし、注意していないとタイミングの悪いときにタイミングの悪いことをしでかしてしまう。
たぶん、ミネソタに帰ることはもうないだろう。いちどあたたかいところに住んだら寒い土地へは戻れない。
「リラックスしすぎて太った」といって、ホークはおなかの肉を軽くつまんでみせた。38歳とは、そういう年齢なのである。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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