「シュートは卑しい単語だ」と教えてくれたゴッチ先生――フミ斎藤のプロレス読本#057【カール・ゴッチ編エピソード5】
ゴッチ先生は“パンクラス”という団体名にはたいへん満足している様子だった。ドイツ語なまりで“パンクラスPANCRASE”と発音すると、なんだかすばらしい響きになる。
「しかし、だな」とゴッチ先生はつづけた。
「シュートshootという表現はいかん。シュート・レスリング、シューティング、どれもダメだ。なぜだと思う?」
これはちょっとむずかしい。
「それは“シュート”がインサイド・ランゲージ(業界用語・隠語)だからだ。レスラーとそのまわりにいる人間にしか通用しない卑しい単語だ。インサイド・ランゲージは、人をあざむく言語なのだ。なにも隠すことなどないのだから、正々堂々としていればいい」
そこまで話すと、ゴッチ先生は「ほかのみんな……」である藤原喜明や前田日明のことを気づかった。
ゴッチ先生は5分ごとに「もう日本に行くこともないだろうが」と口にした。奥さまのエラさんの体調があまりよくない。ゴッチ先生自身もぜんそくが出て、困っている。
「キミ、日本からかけているのかね」
ついさっき、日本武道館で観てきたパンクラスの試合のことを話したばかりなのに。
「もったいないから、もう切りなさい」
ゴッチ先生は、夏が来ると70回めの誕生日を迎える。(つづく)
※文中敬称略
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

斎藤文彦
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
1
2
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
スチュー・ハート カルガリーの“プロレスの父” ――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第6話>
カール・ゴッチ “プロレスの神様”――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第4話>
“関節技の鬼”藤原喜明「プロレスはセックスみたいなもの。裸のつき合いは深い」――最強レスラー数珠つなぎvol.15
ヒクソン・グレイシー「わたしは最強なんかじゃない」――フミ斎藤のプロレス読本#108【特別編】ヒクソン・グレイシー
ネバー・ライ、ネバー・チート、ネバー・クイット――フミ斎藤のプロレス読本#060【カール・ゴッチ編エピソード8】
この記者は、他にもこんな記事を書いています